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魔界の日常

それからの日々、私は魔界での「日常」を過ごしていた。


毎朝、アスモデウスに拉致られるように連れて行かれて、服を試着させられる。


「これ、どう?これ、どう?これ、どう?ああ、あんた、何着てもかわいい!」


彼女は部屋一杯になるくらいの服を持ってきた。派手なロングドレスからかわいいワンピース、セクシーなドレスからカジュアルな私服まで、山のように積まれてる。


「私、死霊術士なんだけど、着せ替え人形じゃ……」


「でも、あんた、顔が人形みたいにかわいいじゃん!さあ、これ着てみて!」


私はゴスロリの黒いワンピースを着せられた。頭には大きなリボン。


「完璧!」アスモデウスは両手で頬を包んで、目をハートにしてる。「あんたの絵、描く!」


で、彼女は本当に画用紙を取り出して、真剣に描き始めた。


描き終わって、彼女はその絵を廊下に飾った。隣には「魔界一可愛い不死者ちゃん」って書いてある。


私……

毎日お昼は、ベルゼブブに拉致られて、試食をさせられる。


「これ食べてみて!地獄焼きそば!」

「これ!幽霊魚の刺身!」

「これも!悪魔椒のカレー!」


彼の厨房はまるで魔界版の実験基地。いろんな不気味な食材が棚にぎっしり。で、彼が作る料理は見た目はどんどん不気味になってくのに、味はどんどん美味しくなってく。


「なんでそんなに人間の食べ物にこだわるの?」ある日訊いてみた。


彼はしばらく黙ってた。表情がちょっと寂しげになった。


「だって……覚えておきたいんだ。」


「覚えておく?」


「俺が生きてた頃は、人間だったんだ。」彼は言う。「死んで魔族になったけど、人間の食べ物の味だけはずっと覚えてる。インスタントラーメン、焼きそば、カレー、寿司——あれは俺がまだ生きてた時に食べたものだ。」


ベルゼブブが昔、人間だった?


「それはもうずっとずっと昔の話だ。」彼は笑った。「生きてた頃の自分のこと、もう忘れかけてるくらい昔の話。でも食べ物の味だけは覚えてるんだ。」


私を見る。


「だから再現したいんだ。魔界の材料で人間の食べ物を再現したい。そうすれば俺は永遠に覚えていられる——俺は昔、人間だったってことを。」


まん丸いその後ろ姿を見ながら、ちょっと切なくなった。


魔族でも不死者でも、誰にでも覚えておきたいことがあるんだな。


毎日午後は、ベルフェゴールに拉致られて、「考え事の手伝い」をさせられる。


あの半透明の幽霊幹部は、何よりの趣味がソファに寝転がってぼんやりすることだ。でもぼんやりしてる時に彼はいろんな深遠な問題を考えてる。


「すみれちゃん、死後の世界って本当に存在すると思う?」


「あんた幽霊じゃん。私に訊くの?」


「死後の世界が存在するのはわかってるんだ。でも死後の世界のその先の世界って存在するのかな?」


「すみれちゃん、俺たちの存在に意味ってあると思う?」


「さあ。」


「すみれちゃん、宇宙の果てには何があると思う?」


「さあ。」


「すみれちゃん、あのさ……」


「自分で考えたら?」


「考えられないから手伝って頼んでるんだ。」


私、検索エンジン扱いされてる気がする。


毎日夜は、大勢の幽霊たちに囲まれる。

「すみれちゃん、今日は孫に手紙を書いてください!」

「すみれちゃん、入れ歯がまたなくなったんです!」

「すみれちゃん、あの誰々がまた廊下をふわふわ浮いててうるさいんです!」


私は一人ひとり手伝ってあげる。


手紙を書く。物を探す。喧嘩の仲裁をする。あげくのはてには、あるおじいさん幽霊の生前愛用してたパイプを修理してあげた——死霊の力でどうやってパイプを修理したのか自分でもわかんないけど、とにかく直った。


「すみれちゃんは本当にいい人だ。」おじいさん幽霊が感慨深げに言う。「死んで三百年、やっと誰かと話ができたよ。」


彼らの感謝のこもった目を見てるうちに、胸の中に変な感じが湧き上がった。


この化け物ばかりの城で。この世界から忘れられた片隅で——


私は居場所を見つけたんだ。

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