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義姉にいじめられたなんて言ってない!

掲載日:2025/11/25

「フライア・サーバント! 元平民とはいえ、両親から貴族の血の流れる義妹、エフィをよくも虐げたな!? 貴様との婚約を破棄する!」


 指さされたフライアは悠然と立ち上がり、人の波が割れるのにつれて前へと躍り出た。公爵令息ユリパトス・ブラットニーはフライアの堂々たる立ち回りに、一瞬気押されたようにエフィを抱き留め、意を決したように口を開いた。エフィはその愛らしい顔をこわばらせてユリパトスを見上げている。


「大丈夫だか」


「本当にエフィが、わたくしからの虐めがあったと発言したのですか?」


 ふわりと長い髪をかき揚げ、ユリパトスの言葉をフライアは無視して問いかけた。

 フライアの視線を受けて、エフィは目を潤ませながら、首を振った。それを見てフライアはユリパトスに問いを投げかけた。


()()()()()()と、我が義妹も言っておりますが? 婚約を解消したいのなら、こんな面前で子どものように囃し立てなくとも、正式な書類を我が家に送ってくださればすぐに承認のサインをして送り返しましたのに」


 はぁ、とため息をついたフライアに、ユリパトスは怒りで顔を真っ赤に染めて反論した。


「貴様が! エフィをいじめたりしなければ!」


「だから、義妹もわたくしもそんなことはなかったと言っているじゃないですか。あ、もしかしてお父上であるブラットニー公爵の了承が取れなかったのですか?」


 フライアの指摘に、ユリパトスは怒鳴った。


「そういうことを言っているんじゃなくて!」


 図星、か。と、周囲が思う中、ユリパトスはエフィに顔を向けて言った。


「エフィ! 君も言ってくれ。フライアに非道なことをされたのだろう?」


 首をプルプルと振るエフィは、もう真っ青だ。その様子を見てフライアはため息を吐いた。


「こんな場でエフィに発言させようというあなたこそ、エフィの嫌がることをしているってご自覚があるのかしら?」


 怯えている様子のエフィは、フライアに怯えているようにもユリパトスに怯えているようにも、貴族という聴衆に怯えているようにも見える。


「エフィ!」


 焦ったように人を掻き分け、サーバント伯爵と後妻でエフィの実母であるエリシュナが現れた。サーバント伯爵夫妻の姿を見て、エフィは表情を明るくし、二人の元に駆けた。


「……これは、どういうことですかな? ユリパトス様」


 ユリパトスと向かい合ったサーバント伯爵に、顔色を悪くしたユリパトスが口を開いた。


「エフィに言わせてくれ! 義姉フライアにいじめられた、と! 私はエフィを救いたいだけなんだ!」


 その言葉を受けて、サーバント伯爵が目を細める。ブラットニー公爵もぜえぜえと息をしながら遅れて到着した。


「エフィはまだ充分に教育を施せておりません。ユリパトス様だけでなく、ブラットニー公爵も不敬等問わないとお約束いただけるなら、エフィの口から語らせましょう」











⭐︎⭐︎⭐︎


 あるところで、伯爵令息と男爵令嬢が恋に落ちた。

 婚約者のいる伯爵令息と結婚できるわけがないと知っていた男爵令嬢は、少しばかりの夢を見たいという気持ちで伯爵令息と恋人ごっこを楽しんでいた。それくらいなら、婚約者がいても咎められない。そんな範囲内での恋人ごっこ。もちろん、家のために別の人と結婚するつもりだった。

 しかし、我慢を知らない伯爵令息は、男爵令嬢を諦めるつもりはなかった。妾としてでも自分のそばに置いておきたい。そんな気持ちで男爵令嬢を強引に手篭めにした。伯爵令息が婚約者の説得に失敗したその頃、男爵令嬢は突然姿を消したのだった。


「おっかさん! おら、おっちゃんから野菜もらってくるべ!」


 鮮やかな金髪に美しい顔立ちの少女は、村でも有名だった。母親も同様に美しい顔立ちをしていたが、それを上回る美しさに、王家のご落胤ではないかと噂されるほどだった。といっても、小さな農村での噂話で周りに広がるほどでもなかった。


 少女を産んだ母、元男爵令嬢のエリシュナは、子ができたことを自覚するのが早かった。自分のお腹に子がいるとわかってすぐ、伯爵令息の婚約者を思い浮かべた。単なる恋愛ごっこならまだしも、後継者争いに巻き込まれるようなことがあれば、きっと一族諸共消される。そう判断した少女の行動は速かった。伯爵令息に別れの手紙を送り、口の固い親戚を頼って北に行った。そして辿り着いた農村で赤子を産んだ。産んだ子が男ではなく女だったことにエリシュナは安堵した。これで消される心配は少し減った、と。農業をしようにも赤子を抱えたエリシュナは上手くできず、唯一の趣味であった料理をすることにした。外食文化のなかったその村で、エリシュナの開いた食事処は大人気となった。ついでに、エリシュナと仲良くなるにつれて、村人たちはエリシュナに野菜をお裾分けしたりと面倒を見てくれるようになった。


 そんな母エリシュナと二人、細々と、でも幸せにエフィは生きていた。しかし突然、自分の父であるという伯爵が迎えにきた。ずっとエリシュナとの結婚を反対していた母も亡くなり、婚約者であった妻も亡くなった。エリシュナとエフィを迎え入れてももう誰も反対しない。愛していた男にすぐに絆された母に連れられ、エフィは生まれ育った農村と別れを告げ王都にやってきた。そして伯爵邸に迎え入れられ、貴族令嬢として暮らすための教育を受けた。しかし、どれだけマナーや勉強をこなしても、染みついた言葉遣いは頑張っても抜けず、()()()()()であれば誤魔化せるあたりで学園に通うこととなった。来年ではもう最終学年となってしまい、教育が間に合わない。せめて義姉がいるうちに手助けがあるうちにという親心からだった。


 義姉との仲は普通だった。良くも悪くもなく、挨拶や立ち話はする程度。思ったよりも暮らしやすい伯爵邸の暮らしに満足していたエフィは、学園に放り込まれた途端に困惑するのだった。

 伯爵はエフィのことを美しく可愛らしい子だと理解していたが、元平民に心を砕く男子生徒などいないと考えていたのだった。


「おっとう、さま! おら、なんがもででいる気がするんだ。男ばかりに話しかけられる」


 伯爵邸で話すエフィは元の言葉で話す。一方、学園のエフィは鈴を転がしたような愛らしい声で挨拶する。


「ごきげんよう」


 エフィが正しい発音で話せる言葉は、“ごきげんよう”と“わたくし、エフィ・サーバントと申しますわ”と“わかりましたわ”と相槌程度。あとは首を振ったりうなずいたり……。男子生徒が妄想して言葉を当てはめるのにちょうどいい、理想の存在だったのだ。


「エフィ。フライアにいじめられていないかい?」


 にこりと頷くエフィに、男子生徒たちは妄想する。こんなに愛らしいエフィだ。きっといじめられても言えないに違いない。僕が、私が助けて差し上げなくては。と。




⭐︎⭐︎⭐︎


「え、えぇ。サーバント伯爵。うちの愚息が申し訳ない」


 ブラットニー公爵の了承を得て、サーバント伯爵がエフィに頷く。

 伯爵の後ろから顔を出したエフィが口を開いた。


「ほんどか? ほんどになにぶっちゃけちまっても、問題ねえが? おとっさま」


「おとっう、さま」から「おとっさま」に進化しているエフィの淑女教育の進捗に、満足げに頷いたサーバント伯爵を見て、エフィは口を開いた。


「おら、ねえさまにいじめられたなんて言っでねぇが! おらが必死に首振ってるのに、おめぇらが勝手に盛り上がったんだべ!」


 突然の北の農村の言葉に、ユリパトスをはじめとする貴族令息は固まった。


「おら、お前さんと結婚したいなんて、思っだことさ、ねぇ! 勝手にねえさまとの婚約を破棄しようとずる、お前さんみたいなけつの穴ちっせぇ男に興味ねぇ! お前さん、ねえさまと婚約してるんだろ? うちのおとっさまとおかっさまもそうだが、単なる浮気じゃけぇ! どこが真実の愛なんだ?」


 サーバント伯爵の機嫌を取るために、エフィのことを“真実の愛”の結晶と言っていた人たちが、気まずそうに目を逸らした。


「おらのいた村だったら、結婚の約束してる相手おるのに、他の女に声かけだら、村の女衆たちから袋叩きに遭うべ。婚約者おらんくても、お前さんみてぇな男はお断りじゃ。お前さんみたいな男に、ねえさまはもったいねぇべ! こんなんが公爵様として、領地を統治するなんで、考えられねーが!」


「エフィ、言い過ぎだ」


 サーバント伯爵にそう言われ、エフィは母エリシュナに向き直った。


「おっかさまも、男見る目ねぇが!」


 愛娘にそう言われ、満身創痍のサーバント伯爵を、義姉フライアがクスクスと笑う。


「フライア! お父様を慰めてくれ!」


「あらやだ、お父様。わたくしも、エフィと同意見ですわ。まぁ、伯爵としての手腕は尊敬致しますが」


 フライアにも捨てられて、サーバント伯爵が項垂れていると、やっと息の整ったブラットニー公爵がユリパトスに言った。


「エフィ嬢の言う通りだ。短略的なお前が公爵領の領地経営できるか、心配になってきた。後継者候補から外そう」


 そんなことを言ったブラットニー公爵に、エフィが口を挟んだ。


「余計なお世話かもしれねーが、人間誰しも失敗するが。おら、そいつとの結婚はごめんだが、きちんと教育し直してやったら、いい公爵様になるかもしれねー。なれねーかもしれねーが。最初から外すんじゃなくて、他の奴と競わせたらいいんじゃねがと思う」


 エフィのそんな言葉にブラットニー公爵は頭を下げ、サーバント伯爵家は帰宅できることとなった。

 ユリパトス並びにエフィに惚れた男子生徒たちは、一度後継者から外し、兄弟従兄弟たちと共に再教育されることとなったそうだ。

 ユリパトスとフライアの婚約はユリパトスの有責で解消となった。





「ねえさま。おら、この課題さ、わがんねぇ」


「エフィはまず、正しい発音で王都の言葉を話せるようになりましょうね?」


「ぞんなぁ!」


 サーバント伯爵家はエフィの言葉教育に力を入れ直すこととなったそうだ。

 エフィの噂を聞いて、面白がった北の辺境伯令息が婚約を打診してくるまで、あと少し。

エフィの言葉はどこ弁とかではなく、各種方言を参考にしたものです



最後までお読みいただき、ありがとうございます!

家族に虐げられるお話も書いています

『前世は女王でしたが、男尊女卑な異世界で家族に虐げられています〜だから、もふもふと魔術で成り上がります』

https://ncode.syosetu.com/n9233lb/


お口と性格が残念系の美少女の言論規制はこちら

『【完結】「外では決められたセリフしか言えませんわ!」~残念令嬢の心の声~娘の言論を規制してみた件 【短編題】「麗しくて愛らしい。婚約してくれ」と言われました。間違えてますよ?』

https://ncode.syosetu.com/n1853ix/


ぜひお読みいただけると、嬉しいです!

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