幽霊・超常現象研究会 ~黎明高校七不思議・幽霊たちの演奏会~
俺の通う黎明高校には七不思議というものがあるそうだ。まあどこの学校にもそんなものはあるものだと思うが。
夜の学校というのは昼間とは全く違う雰囲気を醸し出す。
ただの教室が恐ろしく見え、ただ廊下を歩くだけで、暗い山道を歩いているのかと思うほどとなる。
日常の場所が非日常の場所となる。特別の場所となるのだ。
まあ自分がそう思い込んでいるだけな気がするが。
だからこそ、七不思議や幽霊騒ぎや都市伝説など眉唾なものの噂が広がるのだろう。
だが、うちの黎明高校は他の高校とは違って本物の七不思議らしい。
黎明高校は今年で創立100年で、先日創立記念の会が開かれた。創立記念の謎の会に参加が強制でほぼ半日知らないおじいちゃんの話を聞いて退屈で死にそうだった。
話がずれてきたが、その100年の歴史、そして今なお残り使われている初期の木造の旧校舎には七不思議が残されている。しかも、七不思議以外にも、幽霊が出る、怪奇現象が起きるなど今でも様々なオカルト話が残っているらしい。
俺は全くオカルトには興味ない。だが、幼馴染の秋葉は別だ。オカルト大好きで、本人曰く霊感体質といってこの手の話題が大好きだ。
黎明高校に入学を決めたのも、黎明高校のオカルト話にひかれたからだ。
そして、その秋葉のオカルト好きに俺はいつも付き合わされていた。今日も付き合うはめとなっていた。
「明人、周りに人いる?」
「いねえと思うけど」
北門の前に俺は秋葉と来ていた。旧校舎が目の前にあり、あまり使う人がない北門。
「じゃあ、明人先に入って」
「なんで俺先なんだよ」
「私の服みなさい」
偉そうに言う秋葉の服を見る。そして、すぐに理由が思いつく。
「スカートで来るなよ。乗り越えるのわかってたろ」
「しょうがないでしょ。この服装が一番お母さんをごまかせるのよ」
秋葉はうなずきながら言う。俺は「ばれりゃよかったのに」、と小声でつぶやく。秋葉のにらむ顔が暗闇でもわかった。
俺はごまかすように「いきますいきます」と適当に言いながら近くの壁を乗り越える。壁の上で秋葉に向けて手を伸ばす。秋葉はその手を当たり前かのように掴む。俺は引き上げる。その時、つい「おもっ」と言ってしまう。
秋葉は何も言わなかったが、壁から降りた瞬間、俺の脇腹に即座に肘をくらわす。俺は苦悶の声をだす。
「うるさいわよ」
「てめえ、いきなり何しやがんだ」
「女の子に重いとか言ったやつには軽いくらいのお返しだと思うけどね」
秋葉は当たり前だとでも言いたげであった。俺は反抗しても無駄なことを知っているために黙り込む。
「じゃあ今日やることを確認するわよ」
秋葉は何事もなかったかのように、はなしを切り替える。俺はういと適当に返事をする。
「黎明高校の七不思議の一つ、幽霊たちの演奏会を確認するわよ。話覚えてるわよね」
俺は「覚えてるよ」と言った後に、耳にたこができるほど聞かされた話を繰り返す。
黎明高校の七不思議の一つ。幽霊たちの演奏会。
それは旧校舎の音楽室で起きるそうだ。雲一つない満月の夜の12時ちょうどに。
ピアノ、木琴、鉄琴等、音楽室と音楽準備室に置いてある楽器がひとりでに動き、演奏が始まる。
それは明け方まで続き、不思議なことに音楽室の近くに行かないと音は聞こえないらしい。
この学校でくらす幽霊たちが楽しむために開かれているイベントだと言われている。
「しっかり覚えてるわね。さすが副会長ね」
「勝手に副会長にされたんだけどな」
秋葉は俺の発言は何事もなかったかのようにする。俺は秋葉が作った幽霊・超常現象研究会のメンバーに勝手にされていた。俺は入会届を秋葉にだまされて名前を書いてしまったのだった。そして、いつの間にか副会長にもなっていた。もちろん会長は秋葉だ。
「ということで音楽室に行くわよ。で、旧校舎のカギは?」
「高橋の爺さんが、いつもの場所に隠してくれてるはず」
「そう、じゃ行くわよ」
高橋の爺さん。それは、黎明高校の非常勤の先生だ。今年で70歳で、黎明高校の卒業生だ。秋葉と同じくらいのオカルト好きだ。そのため、俺たちの黎明高校の七不思議の調査等を陰ながら手伝ってくれている。校舎の鍵を用意してくれたり、校舎の一部の鍵をわざと開けておいてくれたりなど色々してくれる。立場上問題あると思うが。
『私も昔していたしね、新しい発見もあると思うしね』
と、言っていた。俺は高橋の爺さんのことが好きだが、秋葉のオカルト好きを助長するのだけはやめてほしいとは思っている。
俺と秋葉はいつもの隠し場所、旧校舎にある花壇の前へと向かう。そして、自然に見えるが、俺たちにはわかる不自然に置かれた植木鉢の下を見る。そこには旧校舎の鍵の束がある。
「あったぞ」
「貸して」
秋葉はその言葉と同時に鍵の束を俺の手からとる。なれたことだ。
秋葉は鍵の束を確認する。「全部あるわね」とつぶやくと、歩き始める。俺は何も言わずに秋葉についていく。高橋の爺さんにちゃんと用意しなくていいのにと恨みのようなことを思いながら。
秋葉は慣れた手つきで旧校舎の扉の鍵を開ける。いつものごとく中は非常に暗い、秋葉はバッグから慣れた手つきで懐中電灯を取り出す。
そして、俺に「頼んだわよ」と言って懐中電灯を渡す。俺は「うい」と気のない返事をして、懐中電灯を受け取り、秋葉の前に立つ。
「12時まであと20分ね。先に音楽室がどうなってるか確認しましょう」
「了解」
俺は返事をして、音楽室へと向かう。秋葉は、後ろでブツブツと時折何か言っていた。「今日はなんか違うわね」とか「今日は普段より感じるわね」とか。俺はいつものことなので、それには全く反応せずに、真っ直ぐ音楽室へと向かった。
そして、音楽室の前へとつく。音楽室の扉を開けようとしてみるが、しっかりと鍵がかかっているようで開かなかった。音楽室の扉の窓から、中を見てみる。変わったところはなかった。
「ちゃんと鍵はかかってるし変なところもなさそうだ」
「中はいるわよ」
俺は秋葉の手元を懐中電灯で照らしてやる。秋葉が音楽室のカギをあける。
音楽室の中に入り、懐中電灯で辺りを照らしてみる。いつもと変わっているところはなさそうであった。
「音楽準備室も行くわよ」
「はいよ」
先ほどと同じようにして、音楽準備室のカギを開け、中に入る。音楽室と同じように懐中電灯で照らして見ながら、中を確認する。あまり入ったことないのでよくわからないが、普段と変わらないように思えた。
「で、どうする?」
俺の問いを聞くと、秋葉は携帯をバッグから取り出し、画面を見る。時間を確認したようで、続けて「あと10分」と言う。
「近くの空き教室で時間まで待ちましょう」
「了解」
俺と秋葉は鍵をしっかりと閉めた後、近くの空き教室へと入る。
「懐中電灯消しといて」
「えっ?まじ?」
「まじ、幽霊たちが来なくなるかもでしょ」
今更じゃねとか思いながら俺は渋々秋葉の指示にしたがって、懐中電灯の明かりを切る。一気に暗くなる。満月だといっても旧校舎にはあまり光が入らないようだ。
俺は暗闇の中にいると、毎度なんでこんなことしてんだろうなと思ってしまう。
秋葉を心配に思う気持ちで、毎回この調査とやらに付き合っている。まあ今まですべて空振りというか幽霊・超常現象は関係なかったのだが。今まで確認した幽霊話や超常現象はそれらすべてが噓なことを証明する調査となっていた。
俺にとっては。秋葉は時折何かを確信したかのような時はあったが。
今回も何も起こらないだろう。大体黎明高校の調査ももう何度目かわからないが、今までろくな結果じゃなかったのだ。
何か期待しているわけじゃない。むしろそれでありがたいと思っている。秋葉ももうそろそろ大人になってほしいと俺は思っていた。いつまでも俺は付き合えるわけじゃないから。危ないことはやめてほしいのだ。
そんなことを思っていると、突如音楽が聞こえてくる。それは黎明高校の校歌であった。俺は驚き、声をあげそうになる。だがなんとこらえる。秋葉は携帯を開いていた。
「12時ちょうどね」
秋葉の呟きを聞いて、俺はマジかよと思う。だが、すぐに誰かがなんかしてんだろうとか思ってしまう。
「行くわよ、音楽室」
秋葉はそういうと、音楽室へと向かい始める。俺はワンテンポ遅れて秋葉についていく。音楽室に近づくにつれて、音楽は大きくなる。
そして、音楽室の扉の前につく。秋葉と俺は音楽室の扉の窓から、中の様子をこっそりと確認する。
そこで、俺は大きな衝撃を受ける。
音楽室の中は暗く、よく見えなかったが、それでもわかった。音楽室の中には音楽準備室にさっきまであったはずの、楽器が並んでいた。そして、それが演奏されていたのだ。
明らかに人は誰もいないのに。
俺は驚き、悲鳴をあげたくなるがなんとかこらえる。秋葉の前というのもあるが、秋葉に今まで口すっぱく言われてきたことがよぎったからだ。
悲鳴や大声、それは幽霊を呼び寄せると。幽霊の中には人に害をもたらすものもいる。普段は温厚でも何が引き金となるかわからず呪われ、襲われるかわからないと。
俺は不自然に開いた口をふさぎ、秋葉を見る。秋葉は暗闇の中でもわかるほど興奮して、目が輝いていた。
きちんと見れた本物の超常現象に秋葉はひどく興奮しているようだ。正直な話、俺も少し興奮していた。明らかな超常現象だ。科学では説明できないものだ。
俺は秋葉と同じく、その演奏をじっくりと聞き、目の前の演奏を見続けていた。
しばらくして、俺は興奮が冷めてくる。それと同時に恐怖を覚えていく。いつまでもここにいて大丈夫だろうかと。俺はその内心の恐怖を押し隠しながら、没頭している秋葉の肩を少しこづく。
秋葉はすぐにこちらを向く。俺は視線で「どうする?」と問いかける。秋葉は少し思案した様子を見せると、旧校舎の出口へと向かう方向を指さす。俺はうなずく。
俺と秋葉は慎重に、旧校舎の出口へと向かっていった。音楽は音楽室から離れれば離れるほど小さくなっていく。旧校舎の出口へとつく頃にはかすかに聞こえるだけとなっていた。
そして、旧校舎の出口の扉を開き、外にでる。
その瞬間、音楽はまるでなかったかのように、聞こえなくなった。
旧校舎の鍵をしっかりと閉め、鍵の束を元あった場所へと戻す。そして、そのまま入ってきたところから学校を出る。その間お互いに無言であった。
「どうする?」
俺が静寂を破り、秋葉に尋ねる。秋葉は「帰る」とだけ言う。俺はうなずく。そして、二人で帰路を歩み始める。
そして、家まであと半分ほどであたりが明るくなると同時に、秋葉が喋り始める。新しいオカルト話を仕入れてきたときの興奮よりも、更に興奮した様子で。
「見た、見たわよね。本物だったわ。幽霊たちの演奏会。七不思議の一つは本物だったわ。これならほかの七不思議も調査しなきゃ。というか前に調べたものも再調査が必要かもしれないわ」
秋葉は興奮した様子でそのまま、喋り続ける。俺はうなずくことしかしていなかった。
そう、明らかに本物だった。あれは本物の超常現象だ。幽霊の仕業といっていいだろう。
秋葉の家があと少しになると、俺は興奮した様子で話が止まらない秋葉に声をかける。何度か声をかけると、秋葉はすっと黙り込む。そして、秋葉の家の前につくと、秋葉は俺に「今日もありがとうね、じゃまた明日」と小さく言って家へと戻る。
俺は秋葉に別れの言葉を言って、自分の家へと帰った。
親にばれないようにこっそり自分の部屋へと戻ると、俺はベッドの上に仰向けに転がる。そして、目を閉じ、音楽室の光景を思い出す。
大分暗くちゃんと見えなかったが、勝手に動いて演奏が行われていた演奏会の様子を。
今まで信じてこなかった幽霊や超常現象を見たのだ。もう信じるしかないのだ。
俺は興奮が冷めぬまま、夜を過ごし、気づけば朝になっていた。
授業は全く頭に入らず、友人たちの話も全く入らなかった。友人から心配されるほどに。秋葉も同じ様子であった。そのせいで、友人たちから変な勘ぐりをされたが。
そして、放課後になるやいなや俺は秋葉とともに高橋の爺さんのもとへと向かった。高橋の爺さんはいつもの幽霊・超常現象研究会が部室としている旧校舎の空き教室にいた。
「「幽霊たちの演奏会本物でした」」
俺と秋葉は挨拶するよりも言う。高橋の爺さんは落ち着いた様子で「見れたのかい」と言う。俺と秋葉は「「はい」」と大きく言ってうなずく。そして、二人であの時の話をし始める。高橋の爺さんはしっちゃかめっちゃかな俺らの話を相槌を打ちながら聞いてくれた。
しばらくして、俺らは落ち着く。そして、謝罪する。いきなり話し始めてしまったことを。
「気にしなくていいよ。君たちのその様子を見れて良かったよ」
ひどく落ち着いた様子の高橋の爺さん。俺は少し疑ってしまう。高橋の爺さんが実は仕組んだのではないかと。だが、すぐに否定する。あれは何か工作してもできないと。
「それにまだやってんだねぇ。私も嬉しいよ」
「高橋さんも見たの?!あれ」
「見たどころか、私は一緒に演奏したよ」
ニコニコと驚きのことをさらりと告げる高橋の爺さん。秋葉は「すごい、一緒に演奏できたの!」と目を輝かせる。
「ああ、三回目の時かな。つい音楽に乗ってしまってね、少し足でリズムをとってしまってね。そしたら、扉が開いてね。楽器が目の前にやってきてね。そのまま一緒に演奏したよ」
「すごい!!!」
秋葉はさらに興奮している。俺はさらりと言う高橋の爺さんに少し恐怖感を覚えた。そして、少し思ってしまう実は高橋の爺さんは。俺は頭に浮かんだ考えをすぐに否定する。
そして、すぐに別の恐怖が自分の中に生まれてくる。
というかつい興奮してしまったが、本物を見れたことで起こるこれからのことに関して俺は気づいていなかった。
「明人、次は私たちも演奏しましょうね!」
「いやそれはやめようぜ」
俺はやんわりと否定する。
「なんでよ、一緒に演奏したいでしょ。幽霊と演奏なんて普通出来ないのよ」
「普通出来ねえからなおさらだよ、怖くてできるか!」
そう、本物を見たということは、より秋葉は暴走するだろう。俺が巻き込まれることは増え、より危ない橋も渡るかもしれないのだ。それにもっと前に気づくべきだった。
「怖くないでしょ、ねえ高橋さん?」
「そうだねぇ、まあ様子見たほうがいいとは思うよ。私のときとは少し違うだろうし」
「そうですよね。様子見たほうがいいから、何起こるかわからないし」
高橋の爺さんのやんわりとした否定に俺は全力でのっかる。だがすぐに裏切られる。
「まあでも、基本は大丈夫だと思うけどね。十分気を付ければ」
「ですよね。じゃあ今度は一緒に演奏するのが目標ね。明人」
秋葉の無邪気な発言と笑顔。俺はそれを見て、もうどうしようもないなと思う。
俺は祈る。
これから巻き込まれる多くのことで、自分の身に危険が及ばないことを・・・