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打ち上がる花火。
無数の星空と大きな月の下、二人の影が伸びた。
「……よろしくお願いします」
ぎゅうっと抱きしめ合う。耳元で答えた、俺の告白への返答は、こんどこそはっきりと聞こえた。
「……ありがとう」
「……これで、契約完了ですね」
「終身雇用ってやつだな」
「ふふ、なんですか、それ……」
「なんですかって、契約内容だろ」
「ぜんぜん終身雇用なんかじゃないですよ?定年後もつとめていただきますので」
「あ、そうか……望むところだ」
「破れば厳罰ですからね」
「破るわけないさ。……魚の針千本は勘弁だからな」
「えへへ、一応集めときましょうか」
「いや、怖えよ……!」
抱き合ったままくすくすと笑い合う二人。彼女は顔をあげた。
「私も、佐藤くんのこと……好き」
花火の音が遠のく。
あの日と同じなのに、今ははっきりと声が届くくらいに近い場所にいる。
目を瞑る赤月さん。
今度は事故なんかじゃない。
互いの想いを重ねる。
柔らかい温もりが、二つ重なり合う。
舌先が微かに触れ、数秒で離れた。
(……これ以上は、まずい)
もしかしたら気を悪くしたかと思い、俺は焦りつつ赤月さんをみた。
「……えへへ……」
しかし、特にそんなこともなく、彼女はただただ熱っぽく火照る頬でにっこりとしていた。
「……」
はにかむ赤月さん。可愛らしくて、愛おしくて、つい頭を撫でてしまう。腰に回された手に力がはいり、彼女は体をよせてくる。
「……すまん、花火始まっちゃったな」
「なぜ謝るのですか?」
「いや、せっかくならあの場所で観たかったかなって……」
「あの場所ですか、絶景の」
「ああ、一番綺麗にみえるあの場所。今から行ってももう遅いから」
「遅くはないですよ」
「え?」
「また次があります。来年、再来年、そのまた翌年も……」
「ああ、そうか。そうだな」
「それにここからの花火も絶景ですよ」
「そうか?」
「はい。佐藤くんの横顔を眺めながらみる花火はどこでも絶景ですね」
「いやどこでもいいんかい」
「えっへへ〜」
なんだか夢みたいだな。暗いと思っていた未来が、こうして綺麗な光で照らされている。俺は、あの頃からは想像もしたことのない場所にいた。
隣には雪の光のような髪をした紅い瞳の美少女。
これから先、きっとケンカしたり嫉妬や疑心暗鬼で上手くいかないことも多いだろうけど、それでも不思議と赤月さんの隣なら幸せな毎日を送れると思えた。
「あの……」
「ん?」
もじもじと体をくねらせる赤月さん。これは……。
「……ひょっとして、あれか?」
「そ、そうですね、あれです」
「わかった。てか、最近多いな」
「……すみません」
「あ、いや責めてる訳じゃなくてさ」
「……好きの気持ちが高まると、そうなるみたいで」
「え、そうなんだ」
「は、はい……なので」
彼女は恥ずかしそうに、きゅっ、と服の端を指でつまむ。
「……あの、またぺろぺろしてもいいですか?」




