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「……弁当?」
「そうです。私がお礼にあなたの昼食をつくる……どうですか」
あの赤月さんの作った弁当だと?んなもん食いたいに決まってる。俺も一応男子の端くれ、憧れないわけがない。
「ずっと思ってたんです。学校でのあなたのお昼、栄養バランス悪いなって」
「え?」
「菓子パン、コンビニ弁当、たまにゼリー、お菓子で済ませるときもありましたね……そのうち健康を損ないますよ?料理苦手なのですよね?」
確かにその通りではある。彼女の言う通り俺は料理できないし、仮にできたとしても料理する時間があればゲームとか趣味に回そうとする人種。なので、作ってもらえるなら時間的にも健康的にも有り難いが。
(親に弁当を作って貰ってないのかと聞かないのは赤月さんの優しさなのだろうか……)
というか、それはそうとその話の前にひっかかった事がある。
「まって、みてたの?俺のお昼……」
「……」
ぴくりと赤月さんの眉が動く。
「いえ、たまに目に入ったといいますか、たまたまみたらそういうモノを食べている時が多かったといいますか……」
「あ、そう……」
見られてたんだ、俺。完全に空気と化していると思ってたから、びっくりした。焦った。ていうか認知されてたんだ……いや、そりゃされてるか。じゃなきゃ話しかけてこないし。
「それで、どうでしょう?良ければ明日からでもお作りしますが」
「それは、まあ……作ってくれるのは有り難いけど。でも、それって結構赤月さんの負担になるんじゃないか?」
「ならないです。どちらかというとあの昼食をみている方が、不安で心の負担になっているかもしれません」
「なんか、ごめんな」
「一人分も二人分もかわりませんよ。大丈夫です。それに、これはあなたへのお礼なので」
「ありがとう」
「受け渡しは、朝に私が学校へ行く前にお伺いしますね」
「ああ、助かる。学校でだとかなり目立つから」
「……」
無言で俺を見てくる赤月さん。なにか言いたげにみえる。
「な、なに?」
「いえ、なにも」
彼女は視線を逸らすと自分のスマホを取り出しみた。時間でも確認しているのだろうか。
「……あの」
「ん?」
「……れ」
「……れ?なに?」
赤月さんの眉間がキュッとした。
「れいとう、食品……入れるかも」
「あ、うん。そっか」
「ぃ……嫌ですかね」
「え、別に嫌じゃないけど。わざわざ作ってくれる弁当に文句なんてつけないよ。ってか冷凍食品も美味しいの多いしな。それでいうとグラタンとか好きだぞ」
赤月さんが携帯を操作する。
「……食べられないものとか、知りたいかもです」
「野菜」
「嫌いなものではなく、アレルギー等で食べれないものですよ」
「悪い、俺は野菜全般アレルギーあるんだ」
「それ嘘だったら酷いですよ?厳罰ですが」
「えっ」
「今ならまだ許します」
「嘘です、すみません」
「……はい執行猶予と」
なんの!?怖い!
「それで、食べられないものは何もないのですか?」
「まあ基本的に。あ、魚がちょっと」
「ちょっと、とは?」
「骨を取るのがめんどい」
「……」
赤月さんが俺をジッと見つめてくる。無表情なのが怖い。
怖くて無言のまま固まっていると、彼女が頷きスマホをタップし始めた。
「わかりました。魚、骨、嫌だ、子供みたい、と……ちゃんと携帯にメモしました」
「恥ずかしい!」
「自覚はあるのですね」
メモるのはいいけど誰にもみせないよな?個人情報だぞ、わかってんのか。
「……そういえば、今さらだが赤月さんって俺の名前とか知ってるのか?」
「え、佐藤 歩くんですよね」
ノータイムで答えられドキリと心臓がなる。しかもフルネームで名前を呼ばれた。……これは、ちょっと嬉しいな。
赤月さんは怪訝な顔で俺をみてくる。
「や、ほら俺って存在感ないからさ、覚えてないなら名乗っといた方が……いいかなって」
「存在感は別として、覚えてるに決まってるじゃないですか」
存在感は別としてね。
「そうか」
「そうです。っていうか、モナカ食べてくださいよ。せっかく持ってきたのに、まだ一つも食べてないじゃないですか」
「あ、悪い。じゃ、おひとつ」
「どうぞどうぞ」
モナカを一つ手に取り包み紙を剥がす。そして、一口頬張ると口の中に程よいあんこの甘みが広がった。
「……ん、美味しい!甘すぎなくて、すごく美味しいなこれ!」
語彙力がお亡くなりになっている俺の感想。だが美味しいというのは本当だ。ちらり赤月さんをみてみると、
「でしょう」
そういって、にこにこと可愛らしく微笑んでいた。