86 赤月 蘭
佐藤くんと会えるのは学校が終わってから、公園での数時間。あの頃、私にとってそれは心の救いとなっていた。
白髪交じりの髪、人と壁を作ってしまう性格。そのせいで私は学校で孤立していました。けれど、そんな嫌な私にも友達とよべる人ができた。
それが佐藤 歩くんだった。
佐藤くんは私が壁を作ろうとしても、ずかずかと入ってくるような人で、いつしか私の心の中にも入ってくるようになった。
最初は嫌だったけれど、それが段々と心地よくなり二人で過ごすことが多くなった。
「佐藤くん」
「お、なになに」
「なになにではありません。なぜ横に座るのですか……近いです」
「そりゃ赤月さんの事が好きだから」
「意味がわかりません、私のなにが好きなんですか」
「可愛いとこ?」
「……っ」
「あと優しい!宿題手伝ってくれたし」
「それはあなたがだらしないから」
「それとこないだおばあちゃんが横断歩道渡ろうとしていた時、荷物もってあげてただろ」
「な、み、みてたんですか」
「たまたまな。こんなに可愛くて優しくて面倒見がいいやつ好きにならないって方が無理だ」
「……わ、わかりました、もういいです」
「やった。じゃ、赤月さんの隣は俺の席だな」
「なんでそうなるのですか!」
「へへ」
公園で過ごすあの一時があったから、家や学校での息苦しい時間をやり過ごせていた。佐藤くんはあの頃のから、私を助けてくれていた。
「ねね、赤月さん」
「なんですか、また赤点とったんですか?」
「ちがーう!そうじゃなくて!」
「?」
「こんどお祭りあるだろ、打ち上げ花火あがるやつ」
「お祭り……ああ」
「反応薄っ!」
「私、そういうのには縁遠くて……それがどうかしたんですか」
「一緒に行こうよ」
「…………え?」
「俺と一緒にお祭り行こう!」
「……それって夜ですよね」
「うんうん、夜」
「難しいです。私の家は門限が厳しいので……」
「門限があるんだ。そっか……それなら仕方ないね」
「はい、ごめんなさい」
「じゃあ俺が赤月さんの家にいって話つけるしかないね」
「……はい。……はい?」
「家連れて行ってよ」
「無理無理」
「無理なの!?」
「なんで佐藤くんが驚いてるんですか!どっちかというと、それ私のリアクションなんですけど」
「話せはばわかると思ったんだけどなあ」
「いったい私の家族のなにを知ってるんですか。なんでそんな既知の間柄みたいな言い方なの……」
けれど、その時の私は実はものすごく夏祭りに行きたかった。そういうのに行ったことがないというのもあったけど、一番の理由は佐藤くんに誘われたこと。
私は佐藤くんの事が好きだった。
優しくて、元気をくれて、こんな私みたいなひねくれ者の側にもいてくれて。かけがえの無い存在である佐藤くんは私の大切な人になっていた。
だから、できれば一緒に夏祭りで花火をみたかった。
「……姉に頼めば、なんとかなるかも」
「お姉ちゃん?まじで?」
「まだわかりませんけど……一応聞いてみます」
姉は血の繋がらない母方の連れ子。時折連絡をくれて、血が繋がってもいないのに良くしてくれる。年が離れていて、もう社会人として働いている姉。だから大人である姉が交渉してくれればもしかしたらお祭りにも行けるかもと思った。
「でも、無理はしないでね。俺は赤月さんと一緒に行きたいけど、赤月さんが怒られたりするのは嫌だからさ」
「……大丈夫です。ありがとう」
「あ、もう月が出てる」
落ちていく夕陽にかくれてそっと現れていた月。
「ねえ、知ってる?」
「なにをですか」
「月が綺麗ですねって、告白」
「……まあ、知ってますけど」
「そっか」




