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祭り当日。綺麗な浴衣姿の赤月さんと並んで歩く歩道。すっかり暗くなった夜道を街灯が照らし、小さな子供たちが駆けていく。
「歩きにくくないか?大丈夫?」
「すみません、大丈夫です……ありがとうございます」
ぎゅうっと握る手に力が入る。
カラン、コロンと下駄の音。
「あの、佐藤くん」
「ん?」
「……このタイミングで聞くのもあれなんですけど、ちょっといいですか」
「ああ……なんだ?」
「佐藤くんの、きのうの悪夢についてです」
「……それは、必要な話なのか?これから遊びに行くのに、このタイミングで」
「佐藤くんの様子をみていて、必要かなと思ったので。だからお祭りの前に、聞きいておきたいのです」
「……そっか」
あの後、普通にしていたつもりだったけど、やっぱり赤月さんにはお見通しというか……動揺しているのがバレバレだったんだな。
「それで、聞きたいことって」
「……それは……その……」
「どうした?」
「……そうですね、うん……」
この言いづらそうにしている様子からして、もしかするとあの頃の話か?いや、今更あれを蒸し返すなんてしないよな……赤月さんは俺のとはあくまで友達として一緒にいたいんだから。
……あの、月を見て一緒にいたいと言ったのは、中学の頃と一緒で俺が都合のいい存在だったからに違いない。
優しくしてくれる奴、今は血をくれる奴……だから一緒にいたいとそう言った。これまでの、お弁当や掃除、遊びにいったのだって……みんな、その方が都合がいいから。
「佐藤くん」
「……なに」
手を離し、赤月さんは俺の前へと回り込む。
「私、佐藤くんが……すっ、好きです」
……。
……は?
「…………え……なんて」
「私、赤月 蘭は……佐藤 歩くんが好き……き、聞こえてませんか?」
「や、えっと……」
「好き!好き!大好き!好きなんです!」
「ちょちょちょ!まてまてまて!!落ち着け!!わかった、わかったから!」
突然なにを言ってるんだ!聞きたいことがあるんじゃなかったのか!?
みれば周囲の通行人の視線を集めていることに気がつく。
「いったん場所を変えよう、近くに公園あったよな……」
「……すみません」
「謝らなくていいよ」
ばくばくする心臓がうるさい。全身が熱くて、顔は火を吹きそうだ。
突然の告白に混乱しながらも、近場の公園へとたどり着く。人は誰もいない。ここならさっきの話を続けられるだろう。
「あの、赤月さん……さっきのって」
「私が佐藤くんのことを好きだという話ですか」
「ぐっ」
火力高い……言われるたびに心を持ってかれそうになる。いや実際すでに持ってかれてはいるんだが。
「……や、まってくれ……なんの話をしてるんだ。そもそも聞きたいことがあるって話だったろ……なんで、こ、告白みたいなことしたんだよ」
「みたいな事ではなく、告白です。なぜ告白したかというと……佐藤くんが好きだからです。ずっとずっと、好きでした……」
「……」
「その表情……やはり昔のことを思い出していたのですね」
「!」
「お久しぶりです、佐藤くん」
聞きたいことって、そうか……俺が記憶を取り戻していたかどうかを聞きたかったんだ。けど、直接的に聞けば、もし俺が思い出してなかったら嫌な記憶を思い出させてしまう事になる……だから、遠回しに。けど……。
「それを確かめるためだけに、そんな冗談を?」
「……な、ひ、人の告白を冗談なんて言わないでください」
「え……ほ、本気なのか……?」
「む、当然です。嘘なんてつきません……」
頬を膨らませる赤月さん。
「……まあ、でも佐藤くんの気持ちはわかります。あの時はすみませんでした。今更謝っても遅いですけど……謝らせてください」
「……いや、なにがなんだか……ちょっと理解できてないんだが……」
「では、思い出話をしましょう」




