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「あ、そうだ……ほい」
「!」
手に持っていたコンビニ袋から、買ってきたペットの麦茶を一本とりだし手渡す。
「……いただいて良いのですか」
「ああ、飲んでくれ」
「ありがとうございます。なんだか、すみません」
「いえいえ」
「……袋の中身で驚かされるのかと思って、危なく眉間に一撃いれるところでした。すみません」
「いや、それはすみませんだな。危ねえな」
「ふふっ、冗談です」
「本気であってたまるか」
「ふふっ、えへへ」
わぁ、きちゃったよ『えへへ』が……たまにする笑い方。火力高えんだよ、えへへは。胸の奥の何かが締めつけられるぅ。
「……今日も暑くなりそうだな」
晴れ渡る空を眺め、平静を装いつつ俺は言う。
「ですね、とても綺麗な青空です……」
二人で見上げた、海のような澄んだ空。
「……海」
この間テレビで海をみたからか、口からその単語がこぼれ落ちた。
「海、好きなんですか」
「え、ああ……まあ」
「へえ、そうなんだ」
「赤月さんは海興味ない感じ?」
「いえ、ありますよ。ただ、人が多くて行くことは難しいですけど……好きですね、海。眺めるのが、好き」
「……行こっか」
「え」
「もっと色んなところに二人で出かけて、人の多さになれてから……どう?」
「……」
「まあ、ここからだと近場の海でも結構お金かかるし、すぐにとは行かないだろうけど……多分、来年とか?」
「行きたい」
「!」
「私、佐藤くんとならどこにでも行けると思います……行きたいです、海」
瞳が輝く。
「……うん、じゃあ、いつか予定を合わせて」
「はい!行きましょう!」
ぐっと拳をつくって微笑む赤月さん。ほんとに海が好きなんだな。
「さて、そろそろ帰ろっか」
「ですね。朝ごはんも作らないと」
「それなんだけど」
「はい?」
「もう怪我の痛みも引いてきたからさ、俺も手伝うよ」
「そうなのですか?しかし、油断は禁物かと……」
「リハビリだよ。洗い物とかならできそうだから」
「そうですか」
「ああ、任せてくれ」
いつまでも負担をかけていたくない。赤月さんは体力もあって平気そうに色々とこなしているけど、吸血鬼の体質以外は普通の女の子なのは変わらないんだ。
俺がちゃんと助けられるところは助けないと。しっかりして、絶対に赤月さんに頼られる存在になるんだ……この八月中に、必ず。
「行こうか」
「……あの」
「?」
「海に行くというお話……」
「ん?」
赤月さんが駆け寄ってくる。そして隣に並び、手を重ねてくる。
「……約束ですよ。一緒に海へ行く……これは約束です。いいですね?」
上目遣いで、甘えるように彼女は言った。
「うん、約束だ」
「……言質とりました、契約完了です」
「言い方怖っ」




