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色々と考えながら夜ベッドで寝ていたら、いつのまにか朝方の小鳥の声が聞こえてきた。……夏休みで良かった。
寝不足だが、あまり眠くもない。なのでもういっそ起きてしまおうと思い、歯を磨き始めた。
まだ五時前……赤月さん寝てるだろうな。
(……そういや歯磨き粉、もう少いな)
散歩がてら近場のコンビニでも行くかな。天気もよさそうだし、歩いたら気持ちいいかも。それに運動も全然してないし、丁度いいか。
着替えて家の玄関を開く。
「……あ」
「お?」
そこにはなんと赤月さんがいた。ピンクの可愛らしいジャージと帽子で、きょとんとした顔の美少女。そして対する俺は黒ジャージ姿で、眠たそうな抜けた顔の陰気な男。……は、恥ずかしい!
「おはようございます、佐藤くん。もう起きてたんですか……お早いですね」
くっ、朝露に輝く一輪の花……!きらめく微笑みが朝陽よりも眩しく見える!
「たまたま目が覚めたんだ。んで、時間あるしコンビニ行こうかなって思って」
「なるほど」
「赤月さんこそなにしてるの?その格好的に……運動だとは思うけど」
「はい、ランニングを。できるだけ毎日、朝走るよう心がけてるんです」
「そうなのか……って、毎日?まじで?」
「ですです。佐藤くんの部屋にお泊りした日とかは走ってませんけど、それ以外は毎日」
お泊りって響きの破壊力よ。赤月さんにそういう気は無いんだろうけど、めちゃくちゃドキッとしてしまった。会話だけ聞いたらもうカップルじゃん。
「そっか……すごいな、毎日」
「あの」
「ん?」
「よければ、お散歩しますか?ウオーキング代わりに……佐藤くんも少し運動したほうがいいかもですし」
「ひょろくてごめんな」
「!、や、違いますよ!そうじゃなくて、体力つけたほうが良いかなって……怪我で体もだいぶ動かしてないでしょうし」
「まあ、そうだな」
「べつに他意はないですから……!」
あわてふためく赤月さんめっちゃ可愛い。くせになるよな、可愛い子が焦ってるのみるの。
それはそうと確かに体を鍛えたいとは思っていたからな。今から体力をつけるのは良いんじゃないか。けど、邪魔じゃないのかな俺。
「確かに体力つけないととは思ってたから、その提案は嬉しいよ。けど、赤月さんランニングしようとしていたんだろ?」
「いえ、ウオーキングでも問題ないですよ」
「そうなのか?」
「はい。それに、佐藤くんと一緒の方が楽しいですから」
ぐっ!……さらりと嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
にこにこと微笑む赤月さん。ほんとに今の赤月さんは初めて彼女を見た時の印象と正反対だな。あの冷たい眼差しから、こうも温もりを感じる目に変わるとは……!
「わかった。じゃあ、最後にコンビニ経由で」
「りょうかいです。ルート設定完了、ナビを開始します」
「カーナビ!?」
「姉の車のナビの真似です」
「そうなのか。……よろしく頼む」
「はい、ではしゅっぱーつ!です!」
ゴー!と手を前に突き出し、彼女は歩き出した。こんな可愛いカーナビ音声があるならそっこうで設定するな。