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「ところで佐藤くん、宿題は終わりましたか?」
「ああ、わかるところまでは」
「ふむ、えらいですね」
赤月さんがにんまり微笑む。子供扱い……これ多分オンライン家庭教師でこんな感じなんだろうな。中学生くらいの子達がこうして褒められているわけか。なんかジェラっちゃうな。
「ではお部屋へ行きましょう。わからなかった部分を片付けてしまいましょうか」
「ああ、助かる」
それから勉強をみてもらい、無事に今日目標としていたところまで終了。その後二人でゲームを始めた。
「……なぜ、あなたが……ここにッ……!?さ、佐藤くん!!昨日のヤバい恐竜がなぜかこんな所にいますけど!?」
とはいえ俺は今赤月さんをプレイしているのを見守っているだけなんだけど。ゲームの事でわからないことがあれば教える係りで、さっきの勉強とは逆に今度は俺が先生だ。
「焦るな焦るな、大丈夫だから」
「これが焦らずにいられますか!!昨日この大きな恐竜に三回も床を舐めさせられたんですよ!?ひぃい……やめ、やめてええ!!食べないでくださいいい!!」
彼女が今プレイしているゲームはモンスターハンティングアクションゲーム。いわゆる狩りゲーと呼ばれるやつで、今日で五回目のプレイだ。
今の状況はというと、ターゲットのモンスターを発見し交戦していたところ、エビルジョウという強モンスターに乱入されてしまった。
赤月さんはこのモンスターに昨晩ボコボコにされちょっとしたトラウマを植え付けられており、ターゲットモンスターをほっぽりだして逃げ惑っている。
「ごめんなさい、すみません、ゆるしてください、ほんとにもう、謝ります、すみませんでした!!」
ものすごい勢いでゲーム内のモンスターに謝罪をし始めた。涙目で必死に逃げ惑い、体を揺らす。そんなことしても意味ないのに。
いつも冷静な赤月さん。こんなあわてふためく彼女の姿はおそらくクラスメイトの誰も見たことがないだろう。必死な彼女には悪いが、優越感と可愛いなぁという気持ちで俺の胸はいっぱいだった。
「赤月さん……もう大丈夫じゃないか?」
「わかりません、油断すればやられますよ!気をつけてください!」
(気をつけてください……?だいぶ気が動転してるな)
「そこベースキャンプだから、こないよ。この間教えただろ……ていうかエリア二つも移動して逃げてきたし」
「出待ちの可能性が……こ、怖すぎます……ここから出た途端にあの大きな口でがぶりとされたら、ひとたまりも……」
これはもう心が折れてますな。
「そろそろ、手伝おうか?」
「……う、うう……お願いしますぅ」
か細い声をあげ、縋るように涙目で俺をみてくる赤月さん。
「今、PCからインして助けに行くから、待ってて」
「……待ちます、いつまでも……」
ちなみにここまで助けに入らなかったのは、操作の腕を上げるためできるだけ一人で進めたいと赤月さんが行っていたから。当初、ある程度赤月さんがゲームになれてから一緒にプレイする予定だったが、こうしてなんだかんだ一緒に遊ぶことが多い。
「しかし、赤月さんアクションゲーム苦手なのになんでこれやりたいって言ったんだ?」
これまで彼女がプレイしたゲームはパズルゲームや音ゲー、レースゲーム、あとはラストファンタジーや竜冒険などのRPG。
アクションゲームはこれが初めてで、チュートリアルでもかなり苦戦していて苦手だと自分でも言っていたからすぐにやめると俺は思っていた。
「……佐藤くんと一緒に遊べるから……」
「え?……でも、パズルゲームとか音ゲーとかも一緒に遊んでただろ」
「直接的な対戦ゲームは気を遣わせてしまいますから……佐藤くん、すごく手加減してくれてましたよね」
「……バレてたか」
「バレバレですよ!ずっと一緒にいた私をあまり舐めない事ですね!」
凡ミスしたふりとかで上手くやれてたと思うんだが……お見通しだったか。しかしそのセリフとドヤ顔はどうなんだ……さっきまで絶望の表情で情けなく逃げ惑っていたのに、どこで強気になってるんだよ。
「でも、アクションゲーム苦手だろ……辛くないか」
「確かに苦手だしちょっと辛いです……さっきみたいにモンスターに追い回されたら怖くて発狂しそうになりますし……」
「だったら……」
だったら別のゲームにしたら?と言おうとした俺の言葉を彼女は遮る。
「……でも、対戦ゲームじゃなく……目標を一緒に倒すこのゲームであれば、佐藤くんに手加減してもらわず二人で思い切り楽しめますから」
そう言ってにんまりする赤月さんは、未だベースキャンプのテントに引きこもっていた。




