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「佐藤くんの部屋の鍵を……?」
「ああ。もういっそ持っとけば?」
スゥー……っと再び赤月さんの目が細くなった。いや、怖っ!これ本気で怒ってない!?顔の整ってる奴がマジで怒ると怖いんだよな……。
「あの、佐藤くん……」
「あ、え……は、はい」
「私の話を聞いてましたか?ちゃんと用心してくださいと、先ほど言いましたが?」
苦虫を噛み潰したような顔の赤月さん。しかし、俺にはその理由がわからんかった。いや、さっきの話を踏まえても、なぜ怒られるのかがわからん。
「ちゃんと聞いてたよ。その上で渡してるんだが」
「ほいほい鍵を渡しといて、よく言えますね」
「赤月さんだからだよ」
「……む」
何かをいいかけ口が「む」っと閉じる。軽く面食らったような表情。こんな珍しい顔初めてみたな。可愛い。
「俺は赤月さんの事を信用してるから」
「……」
じーっとジト目のまま俺を見つめ無言になる赤月さん。俺は猫が警戒しているような印象を受けた。可愛い。
「……そんなにすぐ信用されても、困ります」
「そう?すぐでも無い気がするけど。赤月さんと関わるようになって今日で大体一ヶ月くらい……たしかに日にち的にはそこまで長くはない。けど、時間でいうならもうかなりの付き合いじゃないか?」
「……まあ、それは……そうかもしれませんが」
「これだけ沢山の時間一緒にいるんだし、赤月さんがもしなにかしようと思っていたならもうしてるだろ」
「……けど」
「けど?」
「このお部屋に住まわれているのは佐藤くんだけではないじゃないですか……」
あ、たしかに。普通に考えて、赤月さんからすれば俺一人の家じゃないから鍵を受け取るわけにはいかないか。
「いや、大丈夫だよ」
「どうして……?」
「ここに父さんの物は殆どないから」
「え?」
「わかりやすくいうと父さんとは別居みたいな状態なんだよ。これいうとなんか変に思われそうで言えなかったけど」
「……あの、答えたくなければいいんですけど」
「うん」
「お父さんとのご関係は、あまり良好ではない……?」
「あ、いやいや、仲は良いよ。ただ、ここからだと職場が遠くて。俺が無理言ってここに住みたいっていったから……」
こうして自分の状況を整理すると余計にバイトしないとと言う気持ちになるな。父さんに甘えすぎだろ、俺。
「ま、そんなわけでさ……実質一人暮らしなんだよ」
「……」
まだ何かを聞き出そうにしている赤月さん。しかし、さっきのような疑いの表情ではなくなり、機嫌自体は戻っているようだった。
「……わかりました、お預かりします」
「あ、けど家はいるときは一応インターホン押してくれ。着替えてたり風呂入ってたらまずいから」
「……りょうかいしました」
赤月さんの唇がもにょっていた。




