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……コンビニバイト、ワックドナルドクルー、カフェ店員。
近場のバイトを検索してみたところ、出てきた学生バイトを募集していたお店。いずれも接客がメインの募集であった。いやだー、接客はいやだー!
対人関係は嫌な記憶しかないのでホントに嫌だ。接客はまた別かもしれないけど、それでも嫌だなあ。
(……けど、学校行きながらだと時間的にこの接客の仕事しかないぞ)
スマホのバイト募集一覧を眺め頭を悩ませる。しかし、その時ふと思いつく。……俺、怪我してるしな。これだとまだ今はバイトできないな……するにしても治ってからか。ま、その頃には接客以外のバイトもあるだろ。
「……さて、そろそろ宿題するか」
赤月さんの顔を思い出し、重い腰をあげる。『私がバイトでいない間に宿題を終わらせておいてください。わからないところは戻ってきてから教えますからね』そう言い残して彼女は部屋を出ていった。
ちゃんとやっとかないとな。戻ってきてがっかりされたらやだし。
それから自分の部屋に籠もり一時間。集中して宿題に勤しんでいると、インターホンが鳴った。
(……お、赤月さんか)
部屋を飛び出て玄関の扉を開くと、やはりそこには白髪の美少女、赤月 蘭がたたずんでいた。しかし様子がおかしい。じっとりとした眼差しで、こころなしか睨まれているような。
「……おかえり。てか、どうした?なんか機嫌わるい?」
「なぜ、確認もせずノータイムで扉をあけたんですか」
「え、だって赤月さんだと思ったから」
「それはいけませんよ。最近は物騒な事件も多いんですから。ちゃんと確認してからあけないと危ないです」
めっ、と叱るように眉を曲げる赤月さん。か、可愛すぎんか……この生き物。
「まあ、確かに。けど、赤月さんみたいな女の子ならそういうのはわかるけど……俺、男だしさ。そんな心配しなくても大丈夫だよ」
「それでもですよ!というか、性別は関係ありませんよ!ちゃんと用心してください!」
おお、すげえ威圧感。赤月さん本気で心配してるんだな。
「……まあ、そうだな。万一そういうのがあったら例え俺が男だって関係ないか……武器とか使われたら普通に負けるしな」
「そうですよ、気をつけてください」
ぷんぷんとしながら家の中へ赤月さんは押し入ってくる。扉をしめ、鍵をかり、靴を脱ぎ、すれ違いざまに俺の手を掴み引っ張っていく。どうやら本気で怒ってはいないようだが、思った以上に本気で心配させてしまったようだった。
(まあ、俺が怪我をしてるから余計に心配してるっていうのもあるんだろうけど……)
「赤月さん」
「はい、なんですか」
リビングにつき手を離す赤月さん。エプロンを手に取り振り返る。
「なら、俺の家の鍵わたしとこうか」
「……」
赤月さんの目と口が丸くなった。




