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「ですが、佐藤くん」


「はい?」


「遊ぶ予定を立てからには、宿題のほうもしっかりやらないとですよ。集中してください」


「ああ、任せろ」


「!」


不安は消えた。さっきまでは赤月さんを遊びに誘うことを考え集中力を欠いていたが、これでもう勉強の方に集中できる。うおお、やる気が漲ってきたーッ!!


「……楽しみです」


「ん?」


「佐藤くんと、一緒の……お祭り」


ふふっと微笑み頬に手を触れる。柔らかな表情がまた俺の心を強くする。


「……うん、楽しみだ」


――同じセリフにデジャヴを感じながら、誰かとの約束を薄っすら思い出す。


『……一緒にお祭り行こう。それで、打ち上がる花火を俺と』


『……楽しみです』



――――


翌日。昼間は赤月さんがバイトがあるため居なかった。作り置きしてくれた昼食のおにぎりを頬張りながらテレビを眺める。


この夏行きたい場所ランキングというものが特集されていて、一位が海だった。


海かあ……良いな。


赤月さんと二人で遠出して、電車に揺られながらの長旅。考えるだけで幸せで胸がいっぱいになる。


多くの人で賑わう海水浴場。その中にはちらほらとカップルらしき男女の姿があり、つい俺は自分と赤月さんを重ねてしまう。


水着……見てみたい。あのスクール水着も良かったけど、もっと別のも。


フリルがついたビキニのセパレートとか似合いそう。てか、絶対似合う。うわぁ、見てみたい。すげえ見たい。間違いなく可愛いだろうな。


思わず赤月さんの水着を妄想し、うっとりとする。可愛い水着姿の彼女の手を引いて、砂浜を歩く。海に入り、海水を掛け合っていちゃいちゃする。


『やりましたね、佐藤くん!許しませんよ!刑を執行します!とりゃ、水責めの刑〜!』


『ぶくぶくぶく……(沈)』


(……くっ、最高かよ)


けど、さあー可愛すぎるのも問題なんだよね。なにがって、人の目が集中しやすいっていうのがさ。変装しているのに数回ナンパされかけた事あるし。


その時は二人で逃げて事なきを得たけど、水着ともなるとえらい数のナンパにあいそう。それ考えると海とか難しいんだろうな……。


というか、海に行くにも結構金かかりそうだよな。夏祭りでも出費あるし、普通に考えて無理か。


しかし世の中金がかかるよな。最近は趣味に費やしていた分を削って赤月さんと出かける時の費用にしているけど。でも、もし海なんて行くならもっともっと削っていかないとだよな。


(そもそも俺の使ってる金って、父さんが働いて入れてくれてる生活費の一部なんだよな……)


なんとなく、もやもやとした気持ちがでてくる。まだ高校生で、だから親に養われているのは普通だと思っていた。けれど、その一方で赤月さんのようにバイトでお金を稼いでいる人達もいる……。


その稼いだお金の使い道は様々だと思う。遊びに使うのか、貯金するのか……もしかしたら自分の学費や生活費に充てている人もいるのかもしれない。


(……けど、用途はなんであれ、みんな偉いよな)


小さい頃、父さんの汗水垂らして働く姿を何度かみた事がある。だからお金を稼ぐ事がどれだけ大変なのかは、俺も少なからず知っていた。


……赤月さんの家庭教師だって、決して楽な仕事じゃないはず。


(今頃、赤月さん頑張ってるんだろうな……)


俺はどうなんだろう。前よりは少しマシになってはいると思う。色んな事ができるようになってきたし。でもなんだろう、バイトを頑張ってる赤月さんを思うと……自分がちっぽけに感じてしまう。俺は彼女の隣を歩ける人間に近づけているのか不安になってくる。


(……バイトか)


俺はスマホを手に取った。


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