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夏まつり……もしかして、前にスーパーへ買い出しに行った時に見ていたいチラシのか?


「それって、来月の始めあたりにある」


「……多分、それです。打ち上げ花火があがる」


「ああ、やっぱり」


「やっぱり?」


「赤月さん前にスーパーに買い出し行った時、貼ってあったチラシ見てなかった?」


「それ、結構前ですよね。気がついてたんですか、佐藤くん」


「まあ、すごい見てたから。けど、やっぱり行きたかったんだな赤月さん」


「実は私、中学生の頃に一度だけ行ったことがあって……あのお祭りで行われる打ち上げ花火がとても綺麗だった記憶があるんです。だから、また見たいなって思ってて……」


実際のところお祭りと打ち上げ花火は別なのだが、この二つのイベントは毎年同時に行われている。だからたいていの人はお祭り会場で打ち上がる花火を眺め楽しむ。


なぜ、それを知っているのか。それは俺も中学二年くらいまでは毎年そのお祭りに行っていたからだ。あの頃までは俺も友達が多く、夏休みは外で遊びまくっていたからな。


「わかった。じゃあそのお祭り行こう」


「……でも、人多いですよ?」


「俺がいるから大丈夫だよ。ちゃんと守る」


赤月さんの唇がもにょる。


「それは、心配してませんけど……」


「?」


「……大きなお祭りなので、知り合いに見つかりそうじゃないですか……きっと学校の人もたくさん来ますよ」


ああ、そういうことか。赤月さんは俺の事を気にしているんだ。祭りに行けばクラスメイトに遭遇する可能性はかなりある。例え変装してたとしても、バレるリスクは映画に行くよりも高い。


確かにバレて注目されるのは今でも嫌だ。赤月さんと一緒にいたということが知られれば、嫉妬され敵意を向けてくるやつも必ずいる。


面倒ごとも悪意ももうたくさんだ。


(……けど、でも……それ以上に)


「いいよ、バレても。行こう、夏まつり」


「……え」


俺は赤月さんが大切で、彼女の楽しそうな姿がみたい。今までできなかったことをして、今まで行けなかった場所で、想い出をつくりたい。


そのためなら、面倒ごとも悪意も別にうけてもいい。それくらい、彼女を俺は好きになってしまったんだ。


「そういえば、赤月さんって浴衣持ってるの?」


「え、えっと……持ってないです」


「そっか、残念」


「残念……?」


「夏まつりで浴衣姿の赤月さんみたかったなぁって。絶対似合うだろうし」


またしても唇がもにょった。頬がほんのり赤い。けど、あれか……浴衣って胸大きいと似合わないんだっけ?まあ、似合ってても似合わなくても、どっちでもいいなただただ浴衣姿が見たい。


「……どのみち、あっても着れないじゃないですか」


「なんで?」


「変装はしないと」


「いや、別にいいよ」


「……なぜですか」


「俺の事を気にしてくれてるのなら、もういいよ。大丈夫。こんどから普通の格好で歩こう」


「どうして?」


「うまくいえないけど、多分赤月さんが側にいてくれたから、かな」


「私が?」


「自分に自信がついてきた。赤月さんが教えてくれたおかげで料理が少しできるようになってきたし、勉強もまだちょっとずつだけど出来てきてる……そんな感じで前より成長して自信がついたんだよ」


「……」


「だからもう大丈夫だよ」


赤月さんの瞳が薄く淡い光を放った。


「……わかりました。なら、じゃあ……浴衣で……」


「え!?あれ、さっき無いって……」


「確か、押し入れの奥に姉のが……着ても良いか聞いてみてになりますが」


「おおお!!やった!!」


「……ッ」


俺の喜び様にびくりとする赤月さん。驚かせてしまったか。けど嬉しいものは嬉しい。


「ふ、ふふ」


「お?」


「そんなに喜ぶなんて、なんだか面白くて、ふ……ふふっ」


両手で口を覆い赤月さんは笑っていた。


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