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「俺の勉強を……?」
「はい。佐藤くんの勉強を……嫌ですか?」
「嫌っていうか、なんでだ?……あ、バイトってことか?」
「いえ、バイトではなく。お金はいりません」
「じゃあなんで?赤月さんにメリットがないだろ」
「ありますよ。勉強を教えるのって、教える側にも勉強になるので。それに復習にもなって、私のためにもなります」
「……なるほど」
「いいですかね?毎日、夜に数時間」
「俺は嬉しいけど。でも、悪い気がする……」
「なにがですか」
「他の人がお金をだして赤月さんに教えて貰ってるのに」
「ああ……なるほど」
その時、赤月さんがふふっと笑った。
「ど、どうした」
「いえ、変なところで真面目なんですね、佐藤くん」
「……赤月さんに言われたくないが」
「私は真面目じゃありませんが」
赤月さんが真面目じゃなかったら、誰が真面目なんだよ。律儀に俺に対して礼をし続け、嘘が嫌いで、責任感を体現したみたいなこの人がそうじゃないのなら。
「そうですね。では、あれでどうでしょう」
「あれ?」
指をさす赤月さん。みればそこにはゲーム機があった。
「……あれって、あれか」
「そう、あれです。あれってゲーム機ですよね?私、いままでしたことが無くて……けど興味があります。なので、佐藤くんゲームを教えてくれませんか?」
「俺がゲームを赤月さんに?」
「はい。私は佐藤くんに勉強を、佐藤くんは私にゲームを教える。これでWin-Winです」
「……そうか?ゲーム教えるのと勉強じゃ全然釣り合ってないような」
「釣り合ってますよ。私には十分」
「……そうか」
「では、この契約を結んでよろしいですか」
「契約って言葉なんか怖いな」
「破ればその人生を以て償わせます」
「いやめちゃくちゃ怖いな!」
にんまりと微笑む表情がめちゃくちゃ怖い。
「冗談です、ふふ」
「……でも、本当にいいのか?赤月さんの時間をまた更に奪っちゃうことになるけど」
「それはお互い様です。それにさっきも言った通り私の勉強にもなるので、私のためでもありますからね。気にしないでください」
「わかった、ありがとう……よろしくお願いします、赤月先生」
「先生呼びは恥ずかしいです」
「そっか。……でも先生って呼ばれてるんじゃないのか?オンライン家庭教師では」
「まあ、呼ばれてはいますが……佐藤くんに呼ばれるのは恥ずかしいです」
「そうなんだ……」
「はい」
もじもじする赤月さん。なにがそんなに恥ずかしいのかわからないけど、恥ずかしいらしい。
「……片付け、終わらせましょう……」
「あ、はい」




