7
「血を飲むと落ち着くって、そんな吸血鬼じゃないんだから……あ、もしかして冗談?これもからかってるのか?」
彼女は横に顔をふり否定する。え、マジで?冗談じゃないの……?
「……信じられないかもしれませんが事実なんです。祖父にきいた話なんですが、どうやら私の遠い先祖に吸血鬼がいたらしくて、稀に私のように吸血鬼の血が濃い人間が生まれるみたいなんです」
……吸血鬼の血……?
それってつまり赤月さんが人間じゃないってこと?いや、でも確かに……あの日見た緋色の目、肌に穴をあける程の鋭い犬歯。
白い髪、肌、人間離れした美しい容姿。
(……けど)
現実的にそんな事はあり得ない。冷静に考えて、そもそも吸血鬼なんて空想上の魔物。実在するわけがない。
「……とてもじゃないが、そんな話信じられないな……」
「……そう、ですよね。私も突然こんな事を話されても信じられないですし、信じてもらえるとも思いません。……けれど、巻き込んでしまったあなたにはお伝えしておかなければと思ったんです」
「そ、そう」
この感じ、彼女は本気で言っているのがわかる。
であれば、赤月さんはクール美人タイプじゃなくて不思議ちゃん系だったのかもしれん。
彼女のいっていることはおそらく妄想か何かだろう……。
けど、気になる事を聞いておくか。これが終わればもう彼女と話す機会もないだろうし。
「ついでに聞いときたいんだけど、それが本当だするなら、なんであんなになるまで耐えてたんだ?そうとう苦しそうに見えたけど」
「……血をもらえる人がいなくて」
「家族は?赤月さんの体質を知ってるならくれるんじゃないのか?」
「基本的に一人暮らしなので……」
「あれ、お姉さんがいるって話してなかったか?」
「姉は滅多に帰ってきません。それと、そもそも姉ではダメなんです。私のこれは同性の血では解消されず、接種するのは男性の血液でなければダメなんです」
「……それで俺の血を」
「はい、そうです。あの日、あなたの血をいただいたことで私は長く続いていたあの苦しみから解放されました」
ふとあの日の苦しむ赤月を思い出す。胸を抑えうずくまり、必死に耐えている少女。あの苦しみ方は尋常じゃなかった。それは見ているだけでこちらも辛くなるほどで。
「それは、その……いつからそんな風になったんだ?もしかして生まれてからずっと?」
「いえ、中学生になった頃ですかね。この髪もそれと同じくらいの時期に色が抜け始め、高校生になる頃にはこうなりました」
「それ染めてるわけじゃなかったのか」
「違いますよ。これは地毛です……というか、私だってこんな目立つ髪は嫌ですよ」
「え、嫌だったの?」
「嫌ですね」
「なら染めたらいいだろ」
「ウチの学校では髪染めは校則違反です」
「真面目だな。周りの奴らはみんなやってるだろ」
「だからといって、私がやっていいという理由にはなりません」
「そうか。……まあ、俺はその白髪は綺麗だと思うから良いんだけどな」
「……え」
目をぱちくりさせる赤月さん。自分が今いった言葉を反芻し、急速に羞恥心が押し寄せてくる。
「か、彼氏とか作ればよかったんじゃないのか?男の血が必要ならさ!」
話を変えなければと思い、焦るあまりとんでもない事をぶち込む俺。普段から人と会話してないことがここで仇となった。
「そんな理由で彼氏なんて……動機が不純すぎます。欲求を満たすだけに作るだなんて」
「そ、そっか」
ちょっとむっとされたからビビってしまった。彼女はこほんと咳払いをし、話を続ける。
「話を戻しますね。それで、中学生あたりから段々と変化してきて、ついには血が欲しくなるようになったんです。その欲求は基本的にはしばらくすれば薄れてくれるんですが、時々気が狂いそうになるくらい辛くなって……」
確かにあの時の赤月さんはヤバかったな。気が狂いそうってのが比喩ではないとわかるくらいに。
「まあ、あれはかなり辛そうだったよな」
「はい。けど、そんな中ある日私は法則を見つけたんです……私が血が欲しくなる欲求、吸血衝動にかられる時の法則を」
「吸血衝動の法則?」
「はい。発症した日から、ずっとこの欲求をおさめられないかと考えていて、それでやっと見つけたんです」
「それは?」
「男性に近づかないこと、です」