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お風呂が終わり、朝ごはんを食べて俺は赤月さんに言われるままソファーへ。食器の片付けはひとりでやるから、怪我人はゆっくりしていてと言われてしまった。まだ一ヶ月も立たない内に俺は皿洗い係をクビになってしまったわけで……。
というのは冗談で、たしかに怪我をしている俺なんかが手伝ったところで邪魔になるだけだからな。おとなしくソファーでだらだらしてよう。
(……けど、でももう少しで一ヶ月か)
もうすぐで七月が去り、八月が顔を覗かせる。赤月さんと出会ってからもう少しで一ヶ月だ。あっという間に時間が過ぎた気がする。
一ヶ月前には予想もできないことが立て続けに起こり、俺の日々の暮らしに色がついた。
あの白髪の後ろ姿。姿勢よく洗い物をしている彼女が現れてから、毎日に幸せの色が溢れだしたんだ。
ふと映画の帰り道を思い出した。二人並んだ帰り道にみあげた白く美しい月。あの時のセリフに彼女はずっと一緒にみていたいと答えた。
赤月さんがあれが告白だと知ってそう答えたのかはわからない。けど、ずっと一緒にみていたいと答えたということは、好かれているのは間違いないはず。
あとは俺に彼女の隣にいる資格があるかどうか。見合う男になれるか……。
だと、思う……多分。
もしかしたら、友達としてああ答えただけかもしれない可能性もあるけれども。
けど……それでも、だ。
俺はもう覚悟を決めた。
赤月さんに告白する。
まだまだ先になるだろうけど、この気持ちはもう止められない。だから振り向いてもらえるよう、自分を磨いて赤月さんにオーケーを貰えるような男になる。
それがこの先の、八月中の目標だ。……や、まあ、八月だけじゃ足りないと思うけど。できる限りがんばる。
それでこれから具体的になにをするかだが、ざっと思いつくのは、勉強と料理……そして体を鍛えること。
赤月さんはまだ高校生なのに金銭面以外はほぼ自立している。その彼女に好きだと思って貰うためには、頼られるような男らしい人間にならないとダメだ。
生活費を稼ぐことはまだできないが、自分のことをしっかりできる生活力、そして学力と体力が必要。多分赤月さんに限らず女子は、自分以下のやつを恋人にしたいとは思わないはず(隣の席の田中くんの話によると)……だから彼女と同じくらい自立しないと。
(……勉強は学年トップの赤月さんに勝てるわけ無いから、なるべく近づけるように……せめて平均以上に)
そんで優先順位だが、怪我でできない体を鍛えるのと料理は後回し。当面は勉強を集中的にしようと思う。
「……がんばるぞ」
ぽふっと隣に赤月さんが座る。
「なにを頑張るんですか」
「いや、色々と」
「秘密ですか……?」
「や、秘密じゃないけど……あ、そうだこないだ観た映画の漫画版読むか?」
「む、なにか誤魔化されたような……まあ、いいでしょう読みます」
赤月さんのことが好きになったせいか、彼女にだけは勉強ができないことを知られたくないと思うようになった。俺の学力は今までに何もしてこなかったせいで学年最下位。さすがに恥ずかしくて言えない。
「ほい、二巻から」
「ありがとうございます」
スマホで漫画を開き赤月さんへと渡してあげた。
……さて、問題はどうやって頑張るか。実際のところ、もうわけわからんからな、勉強の仕方。




