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「まずはどちらから洗いますか」
「……それじゃあ髪で」
浴室の鏡の前、椅子に座る俺と背後にいる赤月さん。細心の注意を払わねば……。
「わかりました、ではシャンプーしますね。……ところで、なんで内股なんですか?」
「落ち着くんだよね、内股」
「?、……そうなんですか」
赤月さんは頭上に疑問符を浮かべ俺の頭を洗い始めた。次に体にうつり、今は背中をごしごしと洗ってくれている。
「痛くないですか」
「うん、大丈夫」
「本当ですか?ならなぜ屈むような体勢に……」
「赤月さんが背中を洗いやすくするためだよ」
「普通の姿勢のほうが洗いやすいのですが」
そりゃそうだ。けど、姿勢をよくすると……いや、まてよ。
「……これでいい?」
「はい、ありがとうございます!」
猫背状態の防御耐性から、真っ直ぐに背を伸ばした状態へ。さりげなく両手であれをおさえて、今度はやけに整ったポーズになっていた。
「両手を揃えてお行儀がよいですね」
「まあね」
いや行儀は悪いよ。言い聞かせても全然おさまりがきかないもの……。
けど、それも一概に責められるものじゃない。なぜならこの浴室という空間に限りなく裸に近い男女が二人の状況……しかも相手は赤月さん。こんなの無反応でいられるわけ無いじゃないですかー。
その時、するりと前の方へ赤月さんの手が回ってきた。胸あたりをごしごしと洗い始める。
「え、まって、前は自分でできるぞ……!?」
「でも片手だとけっこう大変じゃないですか。ここまでやったなら、洗えるところ全部やります……んっしょ」
その無垢な善意と親切が俺の欲望を刺激してしまう!!ヤバいって!!せっかく少しずつ沈静化させていたのに……!!
ていうか後ろから手を前にやるもんだから、背中にあれが擦れとるんだが!!
いや、前に回って洗われるのもそれはそれでクソやばいけどさ……!!
つい赤月さんのふくよかなアレが頭を過ってしまう。もしも前から洗われたら、あれが至近距離で……という妄想が走馬灯のように脳内に流れていった。
(……ぐっ、う……)
赤月さんは俺の肩から顔を出し、鏡をみながら俺の体を洗う。洗いの残しが無いように念入りに位置をみながら、ごしごしと。
「……ん、しょ……よいっ、しょ……」
てか、耳元で声出さないでくれますか。すごくぞくぞくしちゃうんですがッ……!
たまにかかる吐息がさらに俺を苦しめる。あと絶妙に洗い方が優しくて心地よい……それも逆に俺を苦しめる要因になってるッ!
あと一番ヤバいのが胸が、胸が、胸が時々擦れて……し、死ぬ……ッ。
「……よし、これで綺麗になりましたっ」
「……ありがとう……」
危なく暴発するとこだったわ。よかった、終わった……。
「それでは泡を流しますね」
シャワーを出し俺の体と自分についた泡を流す。……まあ、確かになんだかんだ手の届かないところを洗って貰えてすっきりした。ありがたい。
「はい、終わりました」
「助かったよ、ホントにありがとう」
「いえいえ。……あ、夜のお風呂も体洗うのお手伝いするので、水着置いといてくださいね」
「……え」
「怪我が治るまでお付き合いします。大丈夫、佐藤くんに不自由はさせませんよ。安心してくださいね」
……いや、安心できないよ。