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「佐藤くん、あとで一緒にお風呂入りましょう」
「――ぶふおっ!?」
危なく赤月さんの顔面に牛乳をぶっかけるところだった。あぶねー……ってか、待って。なんか凄いこと言ってなかったか?
「……いや、なんて?」
「お風呂です。昨日入ってなかったでしょう」
「や、それは入るけど……なんで一緒に」
「左手使えないじゃないですか。そのフォローをします」
「や、ふつうに恥ずかしいんだけど」
「私もです」
「だろうね」
「でも頑張ります!怪我が治るまで私が佐藤くんの身の回りのことをすると決めたので」
「いや、別にそこまで……」
「させてください」
俺と目を合わせる赤月さん。視線がまじわり、この話がべつにからかうとかそういうものじゃ無いことがわかる。
(……赤月さんの気持ち的にも気の済むまでやってもらったほうがいいか)
「わかった、頼むよ」
「!、ありがとうございます」
「けど、風呂だけはやめないか?別の意味で事故ったらこわい」
「いえ、大丈夫です。私に良い案があります」
「良い案?」
そして俺は彼女にあるものを持ってきてほしいと指示され、家からそれを取ってきた。そう、それは水着である。
「なるほど」
「これでお手伝いができます」
確かにこれなら恥ずかしい事故にはならないか。いや恥ずかしいけどな。プール授業でもないのにこんな貧相な体を晒すとか。そんで誰得だよ、俺の水着なんて。
浴室、着ているものを脱いで水着を着用する。これでよし。
「……赤月さーん、着替えたよー」
扉の向こうで着替え待ちしている赤月さんへ呼びかける。すると、「はーい」と返事があり扉がひらく。
「……」
「……では、お手伝いしますね……どこから洗いますか、髪?」
扉を開き入ってきた赤月さん。現れた彼女は、そのモデルさん顔負けの抜群のプロポーションを学校指定の水着に包み、黄金比といっても差し支えないレベルの芸術的なラインを再現していた……ふ、ふつくしい。全身が輝いて見えるぜ……って、まてまてまて!なんで!?
「……え、あの……なんで赤月さんも水着なの?」
「え、濡れてしまうので……だ、だめ?」
聞かれた赤月さんは頬を染め慌てふためく。恥ずかしいんじゃねえか。いや赤月さんの水着なんて正直いってめちゃくちゃ嬉しいよ。嬉しいんだけど……このタイミングはかなりヤバいです。これ別の事故が発生する気がしてならないんだが……。
しかし、こうなってはもう突き進むしかない。ここで突き返すのもあれだし、彼女の言う通りじゃあなにを着て俺のお風呂を手伝えばいいんだよって話だもんな。
「……や、ダメじゃないよ。お手柔らかに、よろしくお願いします」
「了解ですっ」
敬礼する彼女の何かが弾み、俺は瞬時に彼女に背を向けた。