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「……噛みます……」


「うん」


赤月さんの歯が俺の中に入る。つぷ、と微かな牙の感触。なぜかその痛みにも幸せを感じる。吸血鬼は血を吸った相手を眷属にできるらしいけど、今の俺は誰がどう見てもその眷属だろう。


身も心も捧げてしまっている。彼女の幸せを、自分の幸せ以上に願ってしまっている。


ぺろぺろと肩を舐め、傷口に唇をつけ舌を這わせる。


くすぐったく、心地よい……それは彼女も同じなのか、だんだんと体に入る力が抜けていくのがわかった。


いつものように俺に体重をかけ、俺は彼女を支える。


「……ふっ……ひっく……」

 

微かに嗚咽が聞こえた。また泣いているのか。


血を舐めながら涙を流す赤月さん。


胸が締め付けられ、鈍く痛んだ。


(……もしかしたら、この痛みは……感じているこれは、赤月さんと同じなのかな)


なんとかしてあげたい。


少しでも痛みを和らげてあげたい。


そう思った瞬間、俺は赤月さんの頭を撫でていた。


「……大丈夫、大丈夫だよ、赤月さん」


赤月さんは舐めるのをやめて、しがみつくように俺の体を抱きしめた。


それから、血を舐めて疲れたのか赤月さんは微かな寝息を立て始めた。ゆっくりと、起こさないようにベッドへ寝かせる。しかし、布団をかけようとしたとき、赤月さんの瞼が薄っすらあいた。


「あ、ごめん……おこしちゃったか」


「……どこいくの」


「このまま帰るのもあれだから、リビングに居ようと思ってた……」


「……一緒にいてください……」


「一緒に……って、ここに?」


「……佐藤くんが怪我でできないこと、私が手伝いたいです……だから、一緒に」


縋るような目。真面目なのか、それとも怖いのか。或いはそのどちらもか。このままは置いておけないか。


「わかった。ちょっとそこのクッション借りるな」


クッションを枕代わりに寝転がろうとすると、


「……佐藤くん、ベッドつかってください」


止められた。


「いや、流石にベッドは」


「つかってください」


「……赤月さんはどうするの」


「私がしたで寝ます」


「ええっ」


下って、床でってことか?ダメだろ流石に。けど、赤月さんからしたら怪我させた相手を床になんて寝かせられないって感じか。けど、だからといって……困ったな。


「……さ、さすがに無理だよ。赤月さんを床で寝かせるのは」


ジッとこちらを見つめてくる赤月さん。


睨んでるような、困ってるような……。


けど、これだけはわかる。絶対に床では寝かせないという強固な意志……彼女の放つ雰囲気から、明確にそれを感じる。


お互い退かない状況。……しかし、それの状況を崩したのは赤月さんの方だった。


「……きてください……」


そう言って赤月さんは布団をめくり、ぽんぽんと隣をたたいた。


「そこ?」


恥ずかしそうに、しかし強い意志のある目で頷く赤月さん。


「……一緒に、寝ましょう……」


「一緒に……!?」


「なにかあったら起こしてください」


「……いや、え……マジでそこに寝るの、俺」


こくりと頷く彼女の目は真剣だった。


……そこまで気に病んでるのか。


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