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病院から戻ってきた二人。診察の結果、腕の骨に軽くヒビが入っていたようです。……体を鍛えようと思いました。
「……本当に、ごめんなさい……私の不注意で」
「いや、不注意っていうかただの不幸な事故だっただけだよ。赤月さんが気に病むような事じゃない」
「けど……」
「大したことないよ。それより、これで赤月さんが落ち込んでしまうことの方が嫌だな」
「……」
赤月さん……落ち込み顔が困り顔になった。くーん、と鳴いている小型犬のような。
「とりあえず、血を……」
「いえ、大丈夫です」
「え……なんで?舐めたいって言ってたよね」
「こんなことしておいて、血が欲しいなんて……」
「や、だから事故だって」
俯き、微かに震える赤月さん。
「……私……不器用すぎて嫌になります。昔から、こんなことばかりで……」
手のひらで目をこすり、嗚咽にもに似た声でそう言った。……まあ、正直性格は不器用な感じはするな。色々誤解されそうなところはある。
「……す、すみません……私のせいで佐藤くんが辛いのに。……泣きたいのは、佐藤くんの方なのに……ごめんなさい」
「いいよ、別に」
「……え?」
「何度もいうけど、俺は今回のは別に赤月さんが悪い訳じゃないと思ってるし。……でも、泣きたい時は泣いて良いんだよ。赤月さんだって、苦しい気持ちがあるなら抱える必要はないんだ」
「……」
「よし、じゃあ罪悪感があるなら一つお願いを聞いて貰おうかな」
「……お願い」
赤月さんが顔をあげた。頬に涙の伝った跡がみえてちくりと胸が痛む。
「俺の血を舐めてほしい」
「……それは、でも」
「お願いなんだけど、ダメかな」
「……」
「これで我慢されて、もし俺のいないところで吸血衝動がおこったらと思うと心配なんだ……俺は、赤月さんに他の人の血を舐めて欲しくないからさ」
「それは、大丈夫です。我慢しますから、ちゃんと耐えます……」
「でも俺は心配なんだ。万が一そうなったらって想像すると心が苦しい……その不安を解消してくれないかな」
「……不安を解消」
「そう、それが俺のお願い……無理?」
「……無理じゃ、無いです……わかりました」
「うん、ありがとう」
「……私の方こそ、ありがとう」
部屋に移動。ベッドに上がり、対面する。まだ赤月さんがしょんぼりしている。……好きな人が落ち込んでるのって結構こっちも辛くなるんだな。
「あの、佐藤くん」
「ん?」
「…………」
「……?」
「……なんでも無いです、すみません」
「ええっ」
いや絶対なんかあるだろ。でも、無理矢理聞き出してもあれだしな。まあ、後でそれとなくタイミングをみて聞いてみるか。
「……とりあえず、シャツ脱ぐね。と、その前に後ろ向かないとか」
「そのままで」
「え?」
「このままで、大丈夫です」
「向かい合ったまま……?恥ずかしいんじゃないのか?」
「大丈夫」
「……そう」
俺は言われた通り、向きを変えること無くそのままシャツを脱いだ。赤月さんがちらりと怪我した腕に目をやった。また暗い感情がその赤い瞳に滲みだした。
だから、俺は彼女を抱き寄せた。
怪我が見えないように、怪我のしてない方の手を彼女の背に回す。
「赤月さん、ネガティブ禁止だよ」
「……!」
「ほら、舐めて」
と、そこで思い出す。あれ、そういや……俺、シャワー浴びてない。いろいろばたばたしてて、完全にそのことを忘れてた。
「あ、ごめん、そういや俺体……」
ぺろぺろと舌の感触がした。
「……あの、赤月さん……俺、シャワーまだ」
「……大丈夫……ちゅ、れろ……」
「や……汚いから、さ」
「……汚く、ありません……はむ、ん……」
「……」
一生懸命に舐める赤月さん。これはもう止まらなそう。
赤月さんが俺の背に手を回す。いつもより締め付ける力が強く感じた。




