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リュックを自室へ置き、リビングのソファーに座る。俺は目の前のテーブルに肘をついて手を合わせた。
……もうね、ホントにわけがわからない。
隣が赤月さんの部屋だったってヤバくね?ていうか、いつから住んでいたんだろうか。今まで全然顔を合わせることが無かったからまったく気づかなかった。
ピンポーン。
「あ」
まさかの隣に赤月が住んでいたという衝撃的な事実に片付けをするのを忘れていた。せめて目に付くここらへんだけでも。
そこらに放置されていた空き缶やペットボトル、コンビニ袋に入ったゴミを大慌てでキッチンへと移動させる。
そして彼女が座るであろうこのソファーには消臭スプレー的なあれを、シュッシュッと。
(これでよし……)
急いで玄関へ。扉を開けると赤月にじっと睨まれた。
「悪い、開けるの遅くて……」
「居留守をされたのかと思いました」
え、俺……そんな酷いイメージなの?まあいいや。
「それは悪かったな……まあ、上がってくれ」
「……お邪魔します」
なんだか妙な緊張感が。客人が赤月だからというのもあるけど、初めて女子を家にあげるからか。てか友達すらあげたことないのに。
赤月が脱いだ靴をそろえている。てか俺の靴も揃えてくれていた。きっちりしてんな。
「あの、これ」
「ん?」
赤月が手に持っていたビニール袋を渡してくる。受け取ると中にはお菓子が入っていた。高級そうな包装紙に包まれ、モナカの印字がみえる。
「え、なにこれ」
「お菓子です。モナカ、嫌いですか」
「いや好きだけど」
「美味しいんですよ、それ」
「そうなんだ」
「有名店のモナカであんこの甘さ加減が絶妙なんですよ」
「へえ、それは楽しみ……じゃなくて!なんでそんなものを俺に?」
「お家へお邪魔するんです。それくらい当然では」
「いや、別にそんなの気にしなくていいのに。こんな高そうなもの……」
「それこそお気になさらずに。ふるさと納税の返礼品で姉に届いた物なので」
「これお姉さんのなの!?」
「届いたら勝手に食べていいって言われてるんです。他にも色々届くので、一人では食べきらなくて……なので良ければ食べてください」
「あ、そうなの……」
こんど会ったらお礼言っとかないとな。会うことあるか知らないけど。
「あ、どーぞ」
リビングへの扉を開き入ってと促す。俺を横切る赤月さんからふわりといい匂いがした。……大丈夫だよな?リビング臭くないよな?
「そこのソファー座って」
「はい」
俺は彼女から貰ったモナカをぶら下げキッチンへ。赤月の話がどのくらいで終わるのかはわからんが、お茶くらい出さないとな。
貰ったモナカに合うのは、やっぱり緑茶か。丁度冷やしていたやつが二本ある。
冷蔵庫から『うぉ〜いお茶』を二つ取り出し、適当な大皿にモナカを出して持って行く。モナカすげーうまそう。
テーブルにお菓子を置き彼女の目の前にお茶を置いた。
「はい、どーぞ」
「ありがとうございます」
窓際にある座布団を引き寄せ俺も腰を下ろした。
「それで、話って?」
「……はい」
赤月さんは俺の目を見据える。
「まずは、最初に……昨日は、ありがとうございました」
深々と頭を下げる赤月。
「あなたのおかげで助かりました。本当になんといったらいいか……言葉にできないくらい、感謝しています」
言葉から重みを感じる。それほど昨日のあれはヤバかったのだと俺は理解した。
「そっか、助かったのなら良かった。あの時の赤月さんかなり体調ヤバそうだったから。……でも、俺なにもしてないよね?声かけたくらいしか」
「……してくれましたよ」
目を伏せる赤月さん。心なしかほんのり頬が赤い気がする。
この反応からして、やっぱり俺の肩を噛んで舐めたことが関係あるのか?もしかして、あれをすることで心が落ち着くとかそういう?
お互い無言のまま秒針が一周した。
赤月さんがなにも言わない。……いや、恥ずかしくて言いにくいのかも。同級生男子の肩を噛んで舐めて気持ちを落ち着けるとか、言葉にしてみると結構変態的だもんな。
だがこのままでは埒があかない。もういっそ聞いてみるか。
「俺の肩に噛みついたことを言ってるの?」
きくと彼女はぴくりと体を小さく震わせ、無言でこくこくと頷いた。膝に乗せた両手はスカートの裾をぎゅっと握りしめていて、緊張しているのが伝わってくる。
多分俺は彼女にとって、俺が思う以上にとても恥ずかしいことを聞いているのだろう。頬だけではなく耳までもほんのり赤らんでいるのがわかった。
「……もしかして、赤月さんは人に噛みつくと気分が落ち着く習性があるのかな?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「違うの?」
「少し違います」
「じゃあ舐めると落ち着く?」
「や、違います」
「……え、じゃあ何が」
「それは、その……言っても信じてもらえないと思うんですけど」
「うん」
「血を飲むと落ち着くんです」
「血を!?」
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