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帰り道。夕暮れ時、結構な時間を遊んでしまった。夕陽が沈みかけ、オレンジが道路を染める中ふたりの繋がる影が伸びていく。
あっという間だったな。映画を観たのがついさっきのような感じがする。帰路につき赤月さんは映画の感想を楽しそうに話していた。ロインの文章よりも実際にこうして話しているの聞くほうが、その明るい声色と抑揚で彼女がどれだけ楽めたのかがわかる。
口数の分だけ俺を幸せにしてくれる。
手の柔らかさに心がとかされる。
「……星が」
深い青に落ちた空に小さな星が灯りだす。赤月さんは、それを見上げて呟いた。
「ほんとだ。星がちらほら」
夜になれば星はでる。曇りや雨でなければ普通の事だ。けれど、なぜだか今日の星はいつもより眩しくて輝いてみえた。
「……なんだか、今日の星はとても輝いてみえます」
心が重なるたびに、胸が締め付けられる。
「そうだね。……あっち、みて」
「はい」
「月が綺麗だね」
「……」
白く綺麗なお月様。
俺はそこに兎がみえた。
「……一緒、だからかもしれません」
「え……?」
「佐藤くんと、一緒にいるからかも」
声が微かに震えていた。
赤月さんは目を合わせてはくれなかった。
けれど、横目でみた彼女の瞳は潤み輝いていた。
「……本当に綺麗なお月様ですね。ずっと、見ていたいくらい……一緒に」
「……」
止まりかけた心臓の鼓動。
これが、彼女の言葉が、そういう意味なのかはわからない。
けど、俺とずっと月を一緒に見ていたいという言葉を聞いた時、友達以上じゃないと嫌なんだと自分の本心を痛いくらいに感じた。
この胸の苦しさと期待が、俺の本心なんだ。
友達でいれば、側にいられる距離であれば、彼女の笑顔をみていられれば良い……そんなのは嘘だ。
俺は彼女に嘘をつき、執行猶予をあたえられている。もう嘘は……誤魔化すことはダメだ。
俺は、赤月 蘭の事が好きだ。
「また遊びに行こう。それでまた月を見上げよう」
「……はい。一緒に」
照れ臭さからか、その後の口数は互いに減り景色を眺めながら歩いた。不思議とその空気も嫌じゃなく、家へと着くまで心地よい時間が流れていた。
ぬるい風が吹き抜け、夏の匂いが鼻腔をくすぐった。
二人で俺の方の家へ入り、夕飯の準備を始める。昼食の時間が遅かったのもあり、夜は軽く澄ませることに。一緒にクリームパスタをつくり食べる。
「……あ、あの」
「ん?」
「……あとで……血を、舐めても」
赤面しながら赤月さんがいう。
「うん、勿論。っていうか、もしかしてずっと我慢してた?」
「……い、いえ、してません。……けど、なんだか……その……今日はすごく……舐めたい気持ちが」
じんわりと血が滲みるように瞳が深い緋色になっていく。
「うん、わかった。明日も日曜日でお休みだから、たくさん舐めていいよ。そのまま寝ちゃうと思うから、赤月さんの部屋いこうか」
「……すみません……」
食器を洗い、二人で部屋を出た。




