53
「……赤月さん、口周り衣ついてるよ」
「あ、え……ほんとに」
「ほんとほんと」
赤月さんはショルダーバッグからティッシュを取り出し、自分の口元を拭く。しかし絶妙にはずれついた衣が取れない。
「もうちょっと左かな……」
「?……こっちですか」
「行き過ぎ、行き過ぎ!」
「ここ?」
「あー、おしい」
「……ほんとについてるんですか?」
ジト目で睨む赤月さん。これが普段の行いってやつか。基本的に俺が赤月さんにからかわれることのほうが多いが、俺も俺でそれなりにやり返してるからな。
(……これは取ってやった方が早いな)
俺はティッシュを手に取り、赤月さんの口の端についていた食べかすをとってやる。
「ほら、ついてた」
「……」
眉間がギュッとなった。うお、可愛い。……じゃねえ、やば。
「あ、悪い……」
「……いえ、すみません……ありがとうございます」
やべえ、赤月さんのエイムが悪過ぎて取りたくなって、つい拭いちまった。さすがにこれはまずかったか。化粧とかしてるだろうし、勝手に顔に触れるとか普通に考えてダメだよな。
「や、すまん。こんどから気をつけるよ」
「……」
もにゅもにゅと唇が動く。……はっ、あの動きはちょっと嬉しい時に見せるやつ!けど、おかしい。この状況で嬉しいと感じることは何もない。今まであれはそういうサインかと思っていたけど、ひょっとして違うのかもな……。
謎のアップデートをして、話題を変える。
(……こういう時は怒ってるにしろなんにしろ、話を変えた方がいい。もし、本当に怒ってるなら更に謝るってのは逆効果になりがち)
※すべて漫画やゲーム、ラノベの知識です。
「そういや、赤月さんて甘いもの好きだけどさ、一番好きな甘いものってなんなの」
「……いちばん、ですか。そうですね、ホワイトチョコレートとか好きです」
「へえ、ホワイトチョコレート……最初のイメージで和菓子的なのが好きなのかと思ってたよ」
「ああ、モナカですか。あんこも好きですけど、僅差でホワイトチョコレートに軍配があがります」
「味が好きなのか」
「そうですね。あと白色なのが好きです」
「あ、色も好きなんだ。やっぱり自分の髪色が白だから?」
赤月さんが、ちょいちょいと前髪を指で触る。
「……まあ、ですね。目立つという点だけは嫌ですが、自分のこの白色の髪は好きです」
「綺麗だもんな。なんか、夜に光る雪みたいで」
ふと空気の変わる気配がした。
目を丸くし、こちらを見る赤月さん。
薄い赤色の瞳が微かに潤んだ気がした。




