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「……赤月さん、口周り衣ついてるよ」


「あ、え……ほんとに」


「ほんとほんと」


赤月さんはショルダーバッグからティッシュを取り出し、自分の口元を拭く。しかし絶妙にはずれついた衣が取れない。


「もうちょっと左かな……」


「?……こっちですか」


「行き過ぎ、行き過ぎ!」


「ここ?」


「あー、おしい」


「……ほんとについてるんですか?」


ジト目で睨む赤月さん。これが普段の行いってやつか。基本的に俺が赤月さんにからかわれることのほうが多いが、俺も俺でそれなりにやり返してるからな。


(……これは取ってやった方が早いな)


俺はティッシュを手に取り、赤月さんの口の端についていた食べかすをとってやる。


「ほら、ついてた」


「……」


眉間がギュッとなった。うお、可愛い。……じゃねえ、やば。


「あ、悪い……」


「……いえ、すみません……ありがとうございます」


やべえ、赤月さんのエイムが悪過ぎて取りたくなって、つい拭いちまった。さすがにこれはまずかったか。化粧とかしてるだろうし、勝手に顔に触れるとか普通に考えてダメだよな。


「や、すまん。こんどから気をつけるよ」


「……」


もにゅもにゅと唇が動く。……はっ、あの動きはちょっと嬉しい時に見せるやつ!けど、おかしい。この状況で嬉しいと感じることは何もない。今まであれはそういうサインかと思っていたけど、ひょっとして違うのかもな……。


謎のアップデートをして、話題を変える。


(……こういう時は怒ってるにしろなんにしろ、話を変えた方がいい。もし、本当に怒ってるなら更に謝るってのは逆効果になりがち)


※すべて漫画やゲーム、ラノベの知識です。


「そういや、赤月さんて甘いもの好きだけどさ、一番好きな甘いものってなんなの」


「……いちばん、ですか。そうですね、ホワイトチョコレートとか好きです」


「へえ、ホワイトチョコレート……最初のイメージで和菓子的なのが好きなのかと思ってたよ」


「ああ、モナカですか。あんこも好きですけど、僅差でホワイトチョコレートに軍配があがります」


「味が好きなのか」


「そうですね。あと白色なのが好きです」


「あ、色も好きなんだ。やっぱり自分の髪色が白だから?」


赤月さんが、ちょいちょいと前髪を指で触る。


「……まあ、ですね。目立つという点だけは嫌ですが、自分のこの白色の髪は好きです」


「綺麗だもんな。なんか、夜に光る雪みたいで」


ふと空気の変わる気配がした。


目を丸くし、こちらを見る赤月さん。


薄い赤色の瞳が微かに潤んだ気がした。


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