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「お昼食べるか?」
「そうですね……」
時刻は午後二時。いや、もう三時近いか。映画の感想会がかなり盛り上がったため、三十分近くもロインでトークしてしまった。
はたからみればちょっと異様な光景だったかもしれない。二人で泣きながら携帯で何かを打ち込んでいるんだから……三十分も。
話し合った結果、映画も観てお金使ったしポップコーンでお腹もそこまで空いてないということで、また適当なカフェに入ることにした。
デパート内の案内板を並んで眺める俺と赤月さん。
「……」
「……」
それはいいんだが、もう手を繋ぐのが当然みたいに繋いでくるな赤月さん。さっき俺がトイレに行って戻ってきて、歩きだす彼女はふつうに横に並んで手を繋ぎだした。
多少の躊躇いのようなものは感じたが、ふつうに手を重ね握りしめてくる。これを振りほどくなんてことはできないし、むしろ俺としては嬉しいし一生繋いでいて欲しいまである……けど、赤月さんは恥ずかしくないのかな。
混雑するお昼時を過ぎ、周囲の人はまばらになっている。彼女からすれば、そこまで手を繋ぐ必要はないようにも思える。
けど、赤月さんは俺の手を握りはなそうとしない。
(……幸せ、だな)
…………好きだ。
「……?」
カフェに向かい歩いていると赤月さんが、ぼんやりと何かを眺めているのに気がつく。何をみているんだろうと、その先に視線を向ける。すると、そこにはゲーセンがあった。……ゲーセン好きなのかな。小さい頃は赤月さんも髪色も白くは無かっという。その頃にゲーセンで遊んでいたとしても不思議はない。
(……それとなく後で聞いてみるか)
カフェにつき、注文に並ぶ。当然のように赤月さんは俺と手を繋いで列にいる。
「……何をたべるんですか」
「ん?そうだな……あのエビカツサンドとか美味そうじゃないか?」
「おお、確かにおいしそうですね」
彼女より、頭一つ分背の高い俺の顔をみあげる。肩が触れ合うような近い距離で、彼女の香りが微かに鼻に届く。
「赤月さんは何が美味しそうだと思う?」
「私は……そうですねえ、あれが美味しいと思いますっ」
指をさし少しはしゃいでみせる。小柄な体でわずかに背伸びし、こちらを向いて微笑む。
「あれって、パンケーキか。大きそうだけど、食べられるのか?」
「無理そうです」
にやりと悪戯な笑みを浮かべる。なんやねん!
「なので、また分け合いっ子しませんか」
「!」
「夜もありますし、佐藤くんもあんまり食べないほうが良いと思います。半分くらいが丁度よいかと」
「確かにな……とかいって、赤月さんがどっちも食べたいだけなんじゃないのか?」
「ふっ」
鼻で笑う赤月さん。
「そのとおりです。バレてしまってはしかたありませんね」
ドヤ顔の赤月さん。
「なんでそんなやってやったぞ顔なんだよ」
「やってやったからですよ」
「なにをだよ」
「ふっふっふ……」
いや、なにをだよ!結局なんなのかはわからないが、俺はなにかをやられたらしい。……まあ、色々とやられてしまってはいるが。気持ち的には、かなり。
……赤月さんは、可愛い顔であくどい笑みを浮かべていた。