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赤月さんの表情から謎の緊張感が伝わってきた。その瞬間、俺は自分がなにを提案したのかを理解し手汗が噴き出した。
「や、ちがう!話し合いの場所として、な?俺の家は基本的に誰も居ないからさ」
……あ、家に誰も居ないとか、逆にやばくね?言い方……。
「……」
赤月さんが胸元に両手を重ね身を捩る。目が薄っすらと細まり、警戒モードに。
「ま、まて、誤解だ!!別に変な事しようだなんて、考えてない!!だから、そんな目で俺を見るな!!」
「……ぷ」
「え?」
ぽかんとする俺に対して彼女は口元を抑えくすくすと笑う。
「嘘……冗談です。疑っていませんよ。反応が面白くて、ちょっとからかっちゃいました……ふふっ」
指で目尻をぬぐう赤月さん。……今のそんなに面白かったか?
(……つーか、すげえ可愛い……)
こんな風に笑ったりするんだ、赤月さんて。
や、女子グループでも笑ったりするけど、少し微笑むくらいで……こんな風に笑ったことなくないか?なんていうか柔らかい笑顔だ。
「では、今度はあなたが先導してください」
「え、ああ……うん」
軽い足取りで俺の後ろへ回り込む。
ばくばくと鳴る鼓動。
(……お、落ち着け……)
冷静になれ。彼女は俺と話したいことがあるから、こんな風に接してくれてるんだ。
なにも特別なことじゃない。もしかしたら俺の知らないところではこんな風なのかもしれないし。
沸き立ちかけた淡い感情を俺は押し込める。
それは人をダメにするから。
「……どうかしましたか?」
「いや、なにも」
「ここからあなたの家は近いのですか?」
「まあ、歩いてあと二十分くらいかな」
「そうですか」
「……」
「……」
会話終了。
いや、会話してるところなんてみられたらダメだから終了していいんだけど。
でも、背中にすげえ視線を感じるんだよな。無言の重い空気もあって居心地がすこぶる悪い。
ていうかなんなんだこの状況。
カースト最下位の陰キャが、カースト最上位の美女を連れ歩いているという構図。うーん、意味わからん。
ついてきているかちらりと見てみる。
歩幅の違いか、歩く速度の違いか。赤月さんとはかなりの距離が空いていた。けれど丁度いいくらいの距離だ。
ちゃんとついてきてくれてるし、これくらいを保っていこう。
てか位置が入れ替わっても俺とは違って赤月さんはまったく不審者にもストーカーにも見えないな。むしろ圧倒的な存在感を放っていて、俺のちっぽけな存在など掻き消されているような錯覚すら覚える。
それから言葉の一つも交わさず俺の家へとついた。
マンションの二階にある一室。そこが俺の家だ。友達もいないし遊びに来たこともないのでここが俺の住むマンションだということは誰も知らない。
なので赤月さんを招いてもバレにくいはずだ。
「ここの二階にある部屋が俺の家だよ」
「……そうですか」
二人で階段を上がっていく。
「私の家と近いですね」
「そうなのか?」
「はい」
いやまあ近いからなんだって話なんだが。俺には関係ないことだ。
俺の住む202号室へと到着。リュックから家の鍵を取り出す。
「あ、私、家からちょっと物をとってきてもいいですか」
「え?あ、うん……」
さっき家が近いと言っていたからな。すぐ戻ってこれる距離なんだろう。まあ、でも丁度いいな。その間に少し居間を片付けておこう、一応。
「じゃあ戻ってきたらインターホン押してくれ。開けるから」
「はい」
赤月が肩から掛けていたスクールバッグ。ジッパーをひらいて中から、小さな鍵を取り出した。
「すぐにお伺いします」
そう言って、俺の部屋の隣にある扉の鍵をあけ、中へと入っていった。
「……え」
201号室のインターホン上には『赤月』と書かれた表札かわりのシールが貼られていた。猫の形の。
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