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はあ、はあと熱い赤月さんの吐息。


(……目は赤くなって無かったけど、そうとうヤバかったんだな)


ちろちろと俺の指の腹を舐める。そして指先を口に入れ、本格的に舐め始めた。噛む前の準備だ。


なぜかはわからないけど、彼女の唾液には痛覚を麻痺させるなにかがあるらしい。


こうして舐めてから噛むのと、舐めないで噛むのでは明確に痛みの感じ方が違う。


――微かな、ちくりとした痛みがした。


ちゅう……ちゅう……と指先の吸われる感覚。


舌の腹で傷口を撫でる感触。


手の甲にかかる、赤月さんの息。


俺の中のねっとりとした気持ちがじわりと湧き出してくる。


「……ん……ちゅ……ふ……」


ちいさく聞こえてくる赤月さんの漏れる声。


……ぞわぞわしてくる。指先は神経が集中しているからか、肩を舐められるより……。


赤月さんは三十秒くらいそうして俺の人差し指を咥え、口から指をはなした。


こうして指先だけ舐める時は、あの大きな痙攣は起こらない。ちなみに血を舐めたあとぐったりしているのは体力がなくなっていて、眠りにつくのは半ば失神しているようなものだと言っていた。血を舐めるとそうとう体力を消耗するみたいだ。


今のこの程度ならそこまで疲れないらしいが。


「……終わった……?」


こくりと頷く赤月さん。俺は彼女に被せていたシャツを取って着直す。……って、あれ?


赤月さんは俯いて顔をあげようとしない。熱もまったく引いてない。いや、引いてないどろかさっきよりも上がってきてるような。


「……足りなかったんじゃないか?」


ふるふると彼女は顔を横に振る。


「けど、まだ」


「……こ、これ以上」


声が震えている。


「……これ以上……ここで、血をなめたら……恥ずかしさで、死にます……」


「お……おお。そっか」


涙目で睨みつけられた。なんで?


「血、ありがとうございました」


「いや、いいよ」


全然ありがとうございますの顔じゃないけど。なんか今にも泣きそうな……これは場所が悪すぎたかな。もっと別のところで舐めさせてあげればよかったか。


しかし、本当に恥ずかしいことなんだな。これまでの経験上、赤月さんは本当にありがとうと思っている。それは確かだ。けど、羞恥心が勝っていて素直に言えないんだろうな。


彼女にとって血を舐めるというのはそれほどのものなんだ。


「……ごめんなさい、せっかく……舐めさせてくれたのに」


「いや、謝らなくていいよ。俺がもうちょっと場所を考えれば良かった。悪い」


「……い、いえ……すみません……」


……これ以上この話を続けるのは悪手だな。この反省は俺の中でするとして、今は映画だ。


「そろそろ映画始まるな」


「あ、はい……」


「なにか飲みながら観ようか。何がいい?」


「……あ、私も……」


「ん?」


「私も、行きます」


「でも、列に男の人がいたら……」


「だ、大丈夫です。いま血を貰いましたし」


「そっか」


ここで断るのもあれだな。血を舐めな直後で、ちょっと精神的に不安定そうだし。


「うん、わかった。行こっか」


こくっと頷く。そして、彼女は俺の右手に手を滑り込ませた。


思わずどきっとしてしまう。


彼女は目を合わせないで俯いている。もしかしたら、また機嫌を損ねてしまったのかと思ったが、繋いだ手の温もりがそれを否定していた。



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