表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/92

46


「……私ひとりでは、こうして遊びにくることもできませんでした。だから、ありがとうございます」


まだ映画もみてない内からお礼を言い出す赤月さん。それほどこの時間を楽しいと思ってくれているということか。


「まだ早いぞ。メインの映画も楽しんでないんだからな」


「そうですね、すみません。……そろそろ行きましょうか」


「ああ、そうだな。行こう……これ、もういいか?」


俺は赤月さんの飲み終わったジュースを指さす。


「あ、はい」


俺のカフェオレのカップと一緒にトレーへ。ゴミ箱は、と。立ち上がり辺りをみていると、赤月さんに袖をつままれた。


「あちらではないですか」


「ん……お、ホントだ。ちょっと待ってて」


「いえ、一緒にいきます」


「……そっか」


後ろをついてくる赤月さん。なるべく男と近くないルートをたどりゴミ箱のもとへ。


「なんだか、どきどきしますね」


「まあ、男性のお客さんも多いからな。土曜日だし」


「……ですね」


店を出ると人が更に増えていた。人混みが激化していて、荒波のように多くの人達が行ったり来たりしている。

お昼が近いからなのか、それとも休日のこの時間帯がいつもこうなのか、滅多に外出しない俺には知る由もない。しかし、これでは上手く男性をすり抜けていくのも難しいだろう。


(見ているだけで酔ってくるな……)


グロッキーになりかけるも、もう少しで映画の時間だ。いかねば。


「赤月さん、はぐれないようにね」


「は、はい」


彼女をみると表情があきらかに強張っていた。そりゃ怖いか、この中を通っていくのは。男とすれ違うことも怖いだろうけど、逸れる危険性のがたぶん怖いはず。


「あのさ、嫌だったらいいんだけど」


「はい……なんですか」


「俺と手を繋ぎませんか」


「手を……わかりました。……手を!?」


俺を二度見する赤月さん。目を丸くしてこちらをみている。嫌、だよな……俺も男だし、触れたら吸血衝動も高まるだろうし。あとシンプルに異性と手を繋ぐのも抵抗あるのかも。


「嫌なのはわかるよ。けど、この人混みのなか逸れたらけっこうヤバい。俺が触れると吸血衝動の問題もあるのもわかる。けど、ここを抜けて映画館についてから一度血を舐めれば……」


「……や、嫌じゃないです」


彼女の左手が俺の右手の甲に触れる。その瞬間、雑踏の音が消えた。


胸が高鳴る。


いつも血をあげる為に肌を舐められ、手を繋ぐ以上のことをしていると言えばしている。


けれど、これは何かが違う。


上目遣いで、恥ずかしそうに彼女は俺をみた。


「……よろしくお願いします」


「ああ」


俺は震えるのをなんとか堪え、小さな彼女の手をつかんだ。


(……て、手汗……大丈夫かな……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ