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注文の品。俺がカフェオレで赤月さんはオレンジジュース。トレーに乗せて彼女の元へ戻る。


「おまたせ」


「……」


こちらに背を向けたまま無言の赤月さん。……あれ、俺またなにかした?機嫌悪いのか?と不安になりながら隣の席に座る。おそるおそるジュースを彼女の前に置いたとき、俺は気がついた。


「……ありがとう、ございます」


「あ、うん」


さっきスマホで開いて渡した漫画を読んで、赤月さんは泣いていた。


(おお、感動してただけか……!)


俺はティッシュを差し出す。


「あ……すみません、大丈夫です」


鼻をすすり、目の端を拭う。


(……びっくりした)


泣いてる赤月さんをはじめて見た。その衝撃が思いのほか大きく、俺の心臓はばくばくとなっていた。漫画で泣くんだ、赤月さん。


……ていうか、泣いてる赤月さんも可愛いな。


油断すると視線が吸い寄せられそうになってしまう。俺は気持ちを落ち着ける為、カフェオレを一口飲み喉を潤した。


「……漫画、面白い?」


聞くと、


「おもじろいれす」


と、鼻声で返事が返ってきた。今読ませたのはミスったかな。

俺にスマホを返す赤月さん。画面をみてみるともう一巻を読み終えていた。読むスピード早いな。


「……二巻読む?」


「いえ、ちょっとこれ以上は……涙で顔が酷いことになっちゃうので。また、帰ってから読ませてもらってもいいですか」


「うん、いいよ」


「ありがとうございます……ちょっと、私、お手洗いに」


「うん、わかった。もし何かあったら呼んで」


「はい、行ってきます」


ちなみに何かっていうのは言うまでもなく、吸血衝動のことである。


……そういえば、これまではどうしていたんだろうな。


今は血を貰える俺という保険があるからこうして街中を歩けているけど、前はどうしてたんだろ。


映画観たい時とか、買い物したい時とか。一人でこの人混みに紛れるのは相当怖いと思うけど。


(……まあ、普通に考えて我慢か)


遊び盛りの年頃の女子。あの体質のせいで友達とも遊べず、自由に買い物も映画も、出かけることもままならない。


俺はいいようのない悲しみに襲われた。


「戻りました」


「ん、おかえり」


隣に座りオレンジジュースのストローを咥え、飲み始める赤月さん。なんか微かに動く喉が色っぽく感じる。


「……冷たくて、美味しいです。ありがとうございます。後で代金をお支払いしますね」


「うん、わかった」


……この場面。カッコつけるのであれば、飲み物代を奢るという手もある。けれど、それは赤月さん的には嬉しくは無いはず。これまで側でみてきてわかったけど、彼女は過度に施しのような事をされるのを嫌う。


理由もないのに奢られるのは絶対に嫌がる。


(……ましてや、このあと赤月さんが楽しみにしている映画だ。強引に奢って変な空気になったら、楽しめるものも楽しめない)


「……あの、佐藤くん」


「ん?」


「私、佐藤くんがいてくれて……良かったです」


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