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「人がいっぱいですね」
「ああ」
街へついた二人。結構余裕を持って部屋をでたので、まだ映画の上映開始まで四十分弱あった。
「赤月さん」
「はい」
「喉乾いたし、どっかお店入ろうか。映画の上映まで時間けっこうあるしさ」
「そうですね、わかりました」
映画館のあるビル。その中にあるカフェへ入ることに。がやがやと人が多く、普段ひきこもっていて人混みとは無縁の生活をしていた俺はちょっと酔いはじめていた。
しかし、ここで赤月さんに情けないところをみせるわけにはいかない。平気なふりをして余裕そうに振る舞う。
(……と、受付の店員さん男の人か。注文の列に並ぶ前に決めとかないとな)
「赤月さんこっち」
「あ、はい」
壁に貼ってあるメニュー表の前まで彼女をつれてくる。
「店員さん男の人だからさ、俺が纏めて注文するよ。赤月さんなにがいい?」
「……あ、ありがとうございます。えと、そうですね、では」
これは少し前に決めたこと。赤月さんは男性に近づくと吸血欲求が増していく。だからなるべく男性との接触する場面は俺が間にはいり盾になると二人で決めていた。スーパーの買い物とか、コンビとか。
まあそれでも、通行人の男性とすれ違ったりして少しずつ血をなめたい欲求がたまっていくらしいけど。万一それで限界が来たとしても側に俺がいるから、大丈夫だ。
「注文してきたよ」
先に席に座っていた赤月さんの元へ。窓際、ガラス張りの向こうには行き交う多くの人々。じーっとそれを眺めていた彼女は俺の声に反応して振り向く。
「ありがとうございます」
「できるまで少し時間かかるみたいだから、ちょっと待ってくれ」
「はい」
それとなく赤月さんの瞳を確認する。わずかに赤く彩度があがっている……が、まだ全然大丈夫そうだ。
限界が近くなったら微かな淡い光を放ち始めるからな。
「……あの、そんなに見つめないでください」
「あ、悪い」
「ちゃんと言いますから、大丈夫ですよ」
それとなく確認したつもりがバレバレだったか。
「そっか、わかった」
「はい」
ふいっと顔をそむけた赤月さん。しまった……機嫌を損ねたちゃったか?話題を変えねば。
「赤月さんは今日の映画、原作を読んでいたのか?」
「そうですね。ママゾンのネット通販でたまたまみかけて、あらすじを読んだところ内容が気になってしまいまして……そのまま購入した感じです」
「なるほど。それで面白かったと」
「はい。内容も良かったんですけど、イラストがとてと可愛くて。すぐに好きになってしまい、最新のものまで全て買ってしまいました。佐藤くんも原作を読まれたのですか?」
「いや、俺は漫画版だけだよ。原作は読んだことはない」
「そうなんですか。私は逆に漫画版は読んだことありませんね」
「え、そうなのか?映画を観に行くくらいだから漫画版も読んでるもんだと思ってた」
「漫画版も気にはなってましたよ、もちろん。しかしそちらまで集めると……かなりの出費になるので」
「あ、そうか。まあ、原作の小説だけでも巻数多いしな……十三巻だっけ」
「はい。なので、漫画版までは手回りません……」
なるほど。と、その時注文の品が出来たと呼ばれた。
「できたみたいだから取りに行ってくる。まってて」
「はい、お願いします」
「あ……そうだ」
「?」
俺は素早くスマホを操作し、映画で見る予定の漫画を表示させた。そしてそれを赤月さんに手渡す。
「それ、よかったら読んでて。行ってくる」
「……!」