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赤月さんが家に来るようになって二週間が過ぎた。
「佐藤くん、ちょっといいですか」
「ん?」
キッチンで料理している赤月さんに呼ばれ、みていたスマホをテーブルに置いて彼女の元へ行く。手渡された小皿に、少量のカレー。味見である。
「……どうでしょう」
「うん、美味しい」
「そうですか、良かったです」
にぱぁ、っと笑う赤月さん。正直、この笑顔があれば大抵のものは美味しく食べれそうだ。……や、カレーはマジで美味いけど。それくらい可愛いってことね。
「では、お野菜の素揚げに入ります。お任せしても?」
「おお、任せろ」
「では、よろしくお願いします」
少し前に赤月さんが天丼を作った事があり、彼女が揚げ物してるのをみた俺は、今度やる時は自分にやらせてくれとお願いしていた。
「油の温度に気をつけてください」
「ああ、わかってる」
「あと火傷にも気をつけて」
「……うん」
「それと怖かったら、私すぐに代わりますから……」
「お母さんか?」
「違いますよ……!」
子供を心配する母親のような発言に聞こえるんだが。てか、隣ですげえ手元みられてて落ち着かない。こないだもオムライスを作らせて貰ったときも、
『卵、ちゃんとわれますか?』
『あれ、ばかにされてる?』
『してません、本気ですが』
『……やっぱ、ばかにされてる』
というようなやり取りがあった。詳しく聞けば赤月さんは、こうして一人暮らしするまで料理をしたことが無くとても苦手だったらしい。今の彼女からは想像もつかないが、不器用で……それこそ卵を割るのも苦戦していたほどに。
だから、自分が沢山失敗してきた経験があるためこうして俺に対し過剰な心配をするっぽい。
「はらはらしますね、佐藤くん」
「落ちついてください、赤月さん」
「油がはねると熱いんですよ、佐藤くん」
「なんで怖くなることをいうんですか、赤月さん」
「なので代わりましょうか、佐藤くん」
「それはお断りしますね、赤月さん」
そわそわし始める赤月さん。どんだけ心配なんだよ……。
一応、これまで五回ほど彼女の元で料理を作らせて貰った。出来はともかく、そのどれもちゃんと成功してきたんだが……赤月さんの心配性は一向に治る気配がない。
(嬉しいような、ちょっと悲しいような……頼りないかな、まだ)
ちなみになぜ俺が料理を彼女に習い料理をし始めたのかというと、彼女の隣に立つに相応しい男になるには料理もできないといけないと思ったから。
少しずつ色々と覚えて、いずれ赤月さんの知らない料理をだして驚かせたい。佐藤くんの料理美味しいです、と言わせて彼女の胃袋を掴み、俺の料理無しでは生きられない体にするのが目標である。
というのは嘘である。料理を覚えたいというのは本当だが、彼女に料理の腕前で勝てるわけないし、どちらかというと胃袋を掴まれてるし、一生赤月さんの作るものを食べていたいと思っている。
……油の温度がいい感じになった。
「いきます」
「お、落ちついて頑張って……佐藤くん、落ちつくのですよ、あなたならやれます、落ちついて」
「赤月さんのが落ちついてくださいね……」
――ジュワァ
【重要】
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