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赤月さん……もしかして、俺のあとを付いてきてたのか?
「あ、えっと……俺?」
一応確認してみると、彼女は可愛らしく首を傾げた。
「?、はい。ここにはあなた以外誰もいませんよ」
周囲をみまわすと確かに俺と赤月さんしかいなかった。というより、誰もいなくなったタイミングで話しかけてきたんだろう。
「……そうだね」
「はい」
真っ直ぐに俺の目をみてくる赤月さん。教室とはちがい目を逸らさない。意思の固さが表れた力強い瞳。
(……そういや、昨日の赤い瞳も綺麗だったよな)
そこで彼女が俺を呼び止めた理由に気がつく。
「あの……話って、もしかして昨日のことかな」
「はい、話が早くて助かります。そうです、その件であなたと話がしたくて……お時間、ありますか?」
「あ、まあ……はい」
「?、いいのですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「では場所を変えましょう。あまり人に聞かれたくない話ですので」
まあ、あれは聞かれたくないだろうな。人の肩をぺろぺろしたなんて。いや、こちらとしても赤月さんと会話してるところなんて誰にも見られたくはないから、願ってもない提案だけど。
「うん、わかった。それでどこに行くの?」
「はい、パッと思いつくのは、カラオケですかね」
「カラオケか。確かに個室だし誰にも話は聞かれないか」
「はい。代金は私が持ちますので、いいですか?」
「いや、俺も払うよ」
「いえ、結構です。私があなたの分も支払います。あくまでもこれは私の用件なので」
「そう?」
「はい」
赤月にそんな風に断られると結構怖いんだが。別に怒ったわけじゃないんだろうけど、普段のイメージで少しでも語気が強まると恐怖心がわいてしまう。
だが俺も一応は男だ。ビビっているとは思われたくない。なけなしのプライドってやつだ。毅然とした態度でそれを了承した。内心びくびくだが。
「では、カラオケへと行きましょうか」
「ああ」
そうして俺の前を先導し始める赤月さん。俺は後を少し距離をあけて追う。
近くにいると誰かに誤解されかねない。
いや、この状態でもみようによっては変質者かストーカーのような。
てかあれだな、カラオケでも入るタイミングずらさないとだな。
(……ん?まてよ)
ホントに良いのか?カラオケって結構遊ぶ学生多くない?ウチの高校って軽音部あるし、それに校外でバンド組んでる奴らも多いって聞くよな。
隣の席の田中くんが友達と話しているのを寝たふりしながら聞いた事がある。
もしその人たちがカラオケに出入りしていたら、俺が赤月さんと一緒の部屋にいるところを見られてしまうんじゃ……。
ありえなくはないぞ。
赤月さんの入った部屋に俺が入っていくところを見られるパターン……もしくは、その逆で赤月さんが出た部屋から俺が出ていくのを目撃されるパターン。
なにかのひょうしで部屋の中にいるのを目撃されるパターン。
赤月さんは髪真っ白で美人で目立つ。そんな人がカラオケに来たらチェックするやつだっているだろうし。
それにバイトに学校の誰かがいたら……?
あかん、次から次と不安要素が思いつく。けど、でも……万一そうなったら?
(……そうなったら)
先輩方にも赤月を狙っている人たちがいるという話も聞く。赤月さんは男嫌いで有名だから、今はあんまり近づいてこないらしいけど(田中調べ)、もし俺と一緒のところをみて男嫌いが克服されたなんて思われでもしたら。
赤月さん、言い寄られたりし始めるんじゃ……?
「あ、赤月さん」
「はい?」
呼ぶと、くるりダンスのように回って彼女はこちらを向く。そして何故か怪訝な顔をした。
「……なぜ、離れているのですか」
「え?いや、赤月さん一緒にいるところ見られたら嫌かなって」
「別に嫌ではないですが」
「だってさっき周囲に人がいないのをみて声かけてきたからさ」
「それは、あなたが……」
そう何かを言いかけ、彼女は口を噤んだ。続きを待てども「あなたが……」の先が出てくることはなく、少し間がいて彼女は首を振った。
「いえ、なんでもありません」
「?」
「それで、なにか?」
「あ、うん。カラオケもさ、誰かに見られる可能性が高いと思うんだよ。だから別の場所にしないか」
「別の場所……?あてはあるのですか?」
「俺の家でどうかな」
「……!」
赤月さんの眉間がギュってなった。
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