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朝食をいただいたあと、赤月さんにお弁当をもらい自分の家へもどった。いつもなら今ごろ起きて学校へいく準備をはじめるのだが、今日は全然余裕があった。
(……なんか、ゲームって感じの気分じゃないな)
なのでリビングを少し片付けてみた。簡単にだが、目についた部分を適当にそれっぽく綺麗にする。テーブルを拭いてみたり、座布団を纏めてみたり。見栄えがよくなるように。
「……いや、見栄えだけよくしてどーするよ」
(……なんか、こうみると俺って予想以上に何もできない人間なんだな)
自分の無能さ加減に辟易する。わずか十分の隙間時間なので出来ること自体が少ないが、それにしてももっとあるだろうと。
いざやろうとしてみて気がついたけど、よくよく見るとテレビまわり埃がすげえな。
いや、そこだけじゃない。横にある棚とか、父さんが使っていた本棚とかも……。
(今まで自分が生活している周辺しかみてなかったから、こうしてみるとすげえ汚くみえるな……)
ふと時計が目に入る。
「……学校、行かないと」
これが今まで怠惰にしていたツケ。今だけ遊んで楽しければいいと思い、面倒ごとを避けてきたから。
将来の夢もなく、なりたいものもない。
だから今さえ、よければいいとずっと思っていた。動画を流しながらゲームをして、飽きたら漫画やラノベ。やらなきゃいけないものを端によせ、積み上げることをしてこなかった。
それは過去のいじめによるトラウマは関係ない部分。
ただただ、俺が怠惰に生きてきたからの結果だ。
玄関の扉をあける。日の明かりに手をかざし光を遮った。眩しい空。
「……あの」
ふと声がし向こうをみると、赤月さんがたっていた。
「途中まで、一緒に歩きませんか」
「……一緒に」
――俺が赤月さんと一緒に歩く。
「だめなら、いいんです……けど……」
赤月さんの眉間がキュッとした。
「ううん、行こう。……一緒に」
やっぱり、俺はこの人といたい。
隣を歩きたい。
ずっと、彼女の隣に居たい。
この先、学生生活が終わったあとの未来も。
(……きっとまだ間に合う)
今からでもまだ、彼女の隣を歩けるような人間にきっとなれる。頑張ってこなかった分、いまからやるんだ。
勉強も家事も、見た目も……変わらなきゃ。いや、変えていくんだ。
赤月 蘭の隣を歩いても恥ずかしくない俺へと。
「……お弁当、早く食べたいな」
「え、さっき朝ごはん食べたのに」
「俺、赤月さんのご飯ならいくらでも食べれるよ。美味しいから」
「……」
彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。




