37
赤月さんの家の鍵をどうするか。鍵をしめていってあげないとヤバいよな。……けど鍵借りていく訳にもいかないし。っていうか、そもそもどこに置いてるかもわからない。
(……どうしよう)
……いや、まてよ。そもそもこのまま赤月さんを放っといていいのか?
冷静に考えて、昼間に血を舐めたのまた今も血を舐めたいと言っていた。間隔が短くなってる。もしこのまま俺が家に戻って、赤月さんがまた血を欲しがったら……。
一晩中あの苦しみを強いることになるかも。
俺はここにいたほうがいいのかもしれない。俺は部屋に帰らず、ソファーに腰を下ろす。
(……まだ九時半か)
携帯で漫画でも見て時間潰すかな。
いつもつかっている漫画アプリを起動させる。ぼんやり作品を眺めていると、うとうとと眠気が襲ってきた。
買い出しで疲れたのだろうか。そういえばさっきから疲労感がすごい。ソファーに横たわり、うつらうつらと目が閉じかける。
……赤月さん……大丈夫かな。
夢をみた。
星空にむかってあがった打ち上げ花火。
大きな音と衝撃。
二人して色とりどに咲く火の輝きを眺め、約束をした。
……二人?
そうだ、俺は中学生の頃に誰かと花火をみて、何かを約束した。
その言葉は花火の音にかき消され、伝わっていなかったかもしれないけど。
俺はなんて約束したんだっけ。
「……ん」
鼻をくすぐる味噌の香り。ふと目を覚ますと、窓から差し込む陽の光が映った。ソファーに横になっている自分に掛けられたピンクのブランケット。みれば枕まで置いてあった。
……あ、そうか。俺、赤月さんの家に……。
ぐつぐつと鍋が火にかかっている音。
トントントントンと包丁が何かを切っている音。
そちらに顔を向けると、忙しそうに料理をしている赤月さんの姿があった。
「あ……佐藤くん。おはようございます……」
「ああ、おはよう」
見た感じ元気そうだ。まだ熱があるのか、ほんのり頬が赤い気もするけど……まあ昨日からすれば全然ふつうに見える。
しかし、なぜかよそよそしい反応。もしかして勝手に俺が泊まったことが原因か?
「ごめん、勝手に泊まって……また血が舐めたくなるかもしれないと思ってさ」
「それは、全然いいのです……というか、私の方こそ寝てしまってすみません……困らせてしまいましたよね」
「いや、困ってないよ。まあ、心配にはなったけど……血を舐めたあと痙攣してたから」
「……」
なぜか、ふと目をそらされた。この話は触れたらマズいのか?赤月さんの頬がさっきより赤くなり、妙にそわそわとし始めた……ひょっとして、恥ずかしいのか?
「あ、ごめん。あんまりその話はしないほうがいいか」
「……いえ……そんなことは……」
「無理しなくていいよ。……よく分かんないけど、恥ずかしいことなんだろ?血を舐めるって」
「……はい」
「これからはあんまりそれに触れないようにするからさ、赤月さんが舐めたくなったら言って」
「……ありがとう、ございます……」
……なんか空気がおかしいな。妙だ。
昨日血を舐めるので三回目だぞ。なのになぜこんなに照れてるんだろう?
「あの、朝ごはん……できてますよ。食べましょう」
「いいの?俺、朝までご馳走になって」
「……一緒に食べたいです」
赤月さんはそう呟きはにかんだ。
ぐっ、反則級……!!




