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「……はむっ、……ちゅ……」
ぺろぺろと赤月さんが俺の肩を舐め始めた。
彼女の舌のぴちゃぴちゃという小さな音。
はぁ、はぁ、という呼吸が異様なくらいに大きく聞こえる。
「……か、噛みますね……」
「……ああ、わかった」
微かな痛みが走る。それは予防注射程度の痛みで、昼間と同じ事をされたのか疑問になるくらい、痛みが少ない。
もしかすると彼女の唾液による効果なのか、それとも今回は浅く噛みつかれただけなのか。
わからないけれど、俺の肌に傷をつけた赤月さんは血を舐め始めた。
「……ちゅ、ん……は……」
時折、傷口に吸い付いているのだろう、ちゅっちゅっとキスのような音がする。
もちろんキスなんかしてるわけないし、赤月さんとしてはただ血を飲んでいるだけ。それは彼女にとって食事のようなもので……べつに他意はないはず。
いや、わからないけど。ただ欲求だと聞いていたので勝手に食欲みたいなものを想像しているんだが。
「はむ、っ……ちゅ、れろ……」
……欲求……いや、そういうのじゃないよな。
どんどん荒く激しくなっていく赤月さんの呼吸。微かな声が漏れはじめ、俺の頭の中で変な妄想をしてしまう。
(……っ)
しかし、俺は即座に目を閉じ宇宙について考え始める。宇宙はどこまで広がっているんだろう、膨張し続けているって聞いたことがあるけど……宇宙人ているんかな。
そう、まったく関係ないことを考え煩悩を掻き消す策戦である。
鎮めろ、鎮めるんだ……俺の欲情を……!
「……ぺろ、ぺろ……」
くそおおお!!宇宙に赤月さんが……!!
どうしても彼女の顔が想像の中に現れる。濡れた舌の感触がするたびに引き戻され、自然と彼女との妄想に変わっていく。
しかしこれは決して俺が変態だからとか欲求不満だからではない。あ、いや、欲求不満ではあるが。
だがそれ以上に、赤月さんに舐められると変な気持ちが大きくなっていくのを感じる。
なんか普通じゃない。これは赤月さんの唾液のせいなのか、彼女が舐め始めるとだんだんその舐められた部分が敏感になり、全身がゾクゾクするようになる。
あまりの気持ちよさに、頭がぼんやりしてくる。
「……ふっ、……ん、んんッ、は……あッ」
と、その時。彼女はびくびくと体を震わせた。
舐めるのをやめ、はあはあと大きな呼吸を繰り返しベッドに倒れ込んだ。
「だ、大丈夫か!?」
前髪がしっとりと額にはりつき、汗をかいている。とろんと潤んだ瞳……力が入らないのか彼女はベッドに横たわりうなだれていた。
「……だぃ……じょぶです……」
え、これ大丈夫なの……?時々、体が痙攣してるけど。顔も火照ったまま戻らない。紅い目はゆっくりもとに戻り始めてはいるが。
「水、飲むか?持ってくるよ」
聞くと、彼女はベッドに顔を埋め頷いた。やっぱり苦しいのだろう。彼女の手は掛け布団を掴み、ぎゅうっと握りしめていた。
急いでキッチンへ。コップは彼女が夕食時に使用していたものを覚えていたのでそれを使う。
「……水、持ってきたぞ」
部屋に入ると、赤月さんは仰向けになっていた。すーっ、すーっ……と微かな寝息が聞こえる。
「赤月さん……?」
どうやら寝てしまったようだった。近寄り額に手を触れた。触った感じ、まだ少し熱っぽいが顔色は戻ってきている。呼吸もふつうに戻ってるし、一安心か。
幼く可愛らしい寝顔。口元に血がついていたので、部屋のティッシュで拭いてやる。ベッドについたらヤバいしな。
ふっくらとした美しい唇。
隙間から見える綺麗な白い歯。
(……まるでお姫様だな……)
赤月さんの無垢な寝顔をみていたら、さっきまでの暴走寸前だった性欲が消えていた。
……しかし、気持ちよさそうに寝ているな。
起こすのが忍びないくらい幸せそうな寝顔。今日はもうこのまま寝かせといてあげようか。
風邪をひいたらまずいのでちゃんとベッドに寝かそう。ベッドに膝をたて、なんとか赤月さんの体を動かす。枕に頭を持っていき、脚を下へ……。
自分でも信じられないくらい冷静だった。
ここで変な事をしてしまったら、間違いなく彼女の信用を失ってしまう。
その意識が、俺の心をうまく制御していた。無防備なこの姿をみても、少しも手を出そうとは思わない。
やわらかい二の腕、太ももに触れても、変な気持ちにならない。いい匂いするなぁとかも思ってないし、パジャマがはだけていて、あ、あと少しで見えそう……なんてことも思ってない。信じて欲しい。
名残惜しい気持ちを堪え、俺は赤月さんに布団をかけてあげた。
「これでよし。さて、帰るか……」
赤月さんの部屋の電気を消して出た。
そして、玄関で靴をはいたところで気がつく。
(あ……鍵、どうしよう)
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