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赤月さんの部屋。インターホンを鳴らすと、奥からとたとたと足音がよってくるのが聞こえた。
――カチャン……ガチャリ。
「……おかえりなさい」
上目遣いで俺をみる赤月さん。熱のある声色で、呟くように迎え入れた。
「……た、ただいま」
おい!声震えてんじゃねえか!しっかりしろ俺!
部屋は明るい。けれどぼんやりと淡い光を宿す瞳。さっきよりまた少し強くなっている。
頻繁に血をあげないとすぐに目が赤くなるのか?だとしたら、普段の生活はカラコンつけないとヤバいな。
「あの」
「ん?」
「……やっぱり、場所変えていいですか……?」
赤月さんの声は微かに震えていた。緊張しているのがこちらにまで伝わってくる。
「うん、全然いいよ。もしかして、俺の家?」
「……いえ、わ……私の部屋で」
「……あー、うん」
幻聴か?今……赤月さんの部屋って聞こえなかった?
赤月さんはうつむき、俺のシャツを指でつまんだ。
「……こっち、です……」
ドライヤーをかけたのか髪の湿気は無く、後ろで結ってある。うなじが丸見えだ。それがとても色気があって、また変な気持ちがわいてきてしまう。
これって、誘ってる……のか?
いや、俺だから大丈夫だと思って……こんな無防備な格好を?
連れられていくと、『蘭』と書かれたネームプレートがかかるドアの前にきた。
(……赤月さんの部屋……幻聴じゃなかったのか……)
一呼吸おいて赤月さんはドアノブを回し、押し開いた。暗い空間。彼女はドアのすぐよこにあるスイッチを押して電気をつける。
光のあたったその部屋は、全体的に白とピンクに彩られていた。そこまで派手な感じではなく、控えめな女の子の部屋。
ただ、ベッドには兎と猫のぬいぐるみが複数おいてあり、あの一帯だけより可愛らしい空間ができていた。
「……可愛らしい部屋だね」
「……ありがとう」
あれ、ミスったか?いま敬語抜けたけど。あんまりジロジロ部屋ん中みるなって思われたか?
部屋の扉をしめ、彼女は俺のシャツをひっぱり中を進む。
そしてたどりついたそこは、
「……ここで、お願いします……」
なんとなくそんな気はしていたけれど、やっぱりベッドでした。
赤月さんはベッドへ腰をおろし、俺をみあげた。
「隣に、来てください」
「……」
何もいえずに隣に座る俺。
いや、というか彼女の顔をみると何も言えなかった。
瞳を潤ませ、縋るような眼差し。
そして心を惹き寄せる、甘い声色。
「……肩を、出してもらっていいですか……」
向かいあい俺はシャツを脱ぐ。
「……あっ、ま、まって……くださいっ」
「?」
「後ろ向きで、背中をこちらに」
「あ、ああ、そっか……うん。わかった」
赤月さんの呼吸があらくなってきた。吸血衝動が高まってきたのかもしれない。
(……変なこと考えてる場合じゃない、しっかりしろ)
そうだ、しっかりしろ俺。この役割すらちゃんとできない奴に赤月さんと一緒にいる資格はないぞ。
「……では、いただきますね」
赤月さんの吐息が俺の肌にあたる。




