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コーラを飲みながら横目で赤月さんの顔をみる。綺麗な整った顔。すっと伸びる鼻筋と、ふっくらした唇。知らずに「赤月さんて雑誌モデルさんなんだよ」とか言われたら普通に信じるくらい美しい造形だ。
(……もう少しで赤月さんと関わりをもって一週間くらいか)
けっこう一日一日が濃厚だったせいか、全然そんな感じがしないな。なんかもう一ヶ月くらいな感じがする。
っていうか、あれだな赤月さんが予想外に話やすかったのが大きいきがする。まるで前から知っている人みたいな距離感だった。
そんなわけないのに。小、中学生の頃の記憶はあんまり無い……ってか思い出したくないけど、クラスメイトだったとしても、こんな白髪で綺麗な子がいたらさすがに覚えてるだろうし。
てか、そもそも赤月さん男ダメだから知り合いなわけねーか。
(……けど、なんかこの横顔も覚えがあるような)
ふと赤月さんの視線がどこかへ向かっているのに気がつく。
ん、なに見てるんだろ……?
彼女の視線の先にはいくつものチラシが貼られている店の壁。習い事やバイトの募集、他にはもう少しで行われるお祭りのお知らせがあった。
明らかに視線がその祭りのお知らせにいっている気がする。打ち上げ花火の写真が入ったチラシ。
もしかして、女子グループで遊びにいく予定なのかな。浴衣とか着るんだろうか。……見たいな。
(あれ、ていうか今思ったんだけど)
夕飯作りに毎日来てもらってるけど、赤月さん友達と遊んだりできてるのか?
赤月さんに俺はけっこうな時間を使わせてしまっている。学校から帰ってきてすぐに家へきて食事作り。食べ終わったあとすぐに帰るけど……それでも、けっこう負担になってるんじゃないか?
「どうしたんですか」
気がつくと赤月さんが俺の方をみていた。
「あ、いやなにも」
「ネガティブ禁止ですよ?」
「え、エスパー?」
「なんだか思い詰めた顔をしてました」
「……ああ、顔に出てたの」
「出てましたよ、潔いくらいに。……それで、なにを悩んでたんですか?」
「や、それはその……」
「佐藤くん、執行猶予中なのですが、それでも誤魔化しますか?」
「すみません、ちょっと赤月さんが心配になっちゃいまして」
「……え、私?……どういうことなんです?」
「いや、ほら夕飯にお弁当に……お礼とはいえ、赤月さんの時間を奪っちゃってるなぁって。勉強とか、友達とかと遊ぶ時間を削ってしまっているんじゃないかなぁ……と」
「……」
きょとんとする赤月さん。
「私は、大丈夫ですよ」
柔らかな笑みを浮かべ、彼女は小首をかしげた。
「……そう?遠慮してんじゃないのか?」
「ないです、ないです。勉強の時間ならちゃんと取れていますし、友達とは学校以外での付き合いはあまり無い方なので」
「え、友達と遊ばないの?あんなに仲良さそうなのに?」
「私は男性に近づけないので。みんなでどこかへ遊びにいくとなるとそこら辺、色々と難しくて……なので、誘われても基本お断りしてます」
「ああ、体質が……なるほど、そうなのか」
「はい、そーなんです。なので気にしなくて大丈夫ですよ。それに時間が欲しい時はちゃんというので」
「わかった」
……あれ、でも、じゃあなんでお祭りのチラシをあんなに見てたんだ?
「そろそろ帰りますか」
ペットボトルのキャップをしめて赤月さんが立ち上がった。




