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「おおい!佐藤おまえ赤月さんとこ行ってたんか!?」
教室に戻ると隣の席の田中が小声で話しかけてきた。
「いや、トイレだって言っただろ……」
ずいずいと顔を近づけてくる野球部のボーズあたま。教えればからかわれることは明白だ。だから口がさけても本当のことはいえない。
「んなこと言ってよぉ?おまえ、赤月さんのことみてるときすげえ心配そうだったじゃねえかよ!いやあ、かっけーな」
……かっけーな?
「助けにいくお前めっちゃ漫画の主人公って感じでかっこよかったぜ!根暗で愛想ないと思ってたけど、おまえいいヤツなんだな?」
「……や、トイレしてただけだからな、俺」
「はっはっは、そーだな!」
そんなに心配そうな顔してたのか俺。田中はもう俺が赤月さんを助けにいったと完全に思っているな。幸い隣の田中しかそれに気がついていないけど。
というか体調が回復して戻ってきた赤月さんが、俺が助けにいったという噂を否定してくれていた。なのでこの話題はそれほど広まらず、放課後となった今はもう薄れ始めていた。
ちなみにいうとお昼は海苔弁当だった。何層にもなっていた海苔と白米がめちゃくちゃ美味かった。層ごとに海苔+鰹節、海苔+梅おかか、海苔+ネギおかかと味変がほどこされ、他のおかずがなくても美味しく食べられる仕様となっていた。とはいえ勿論おかずも食ったけど。
おかずは色々あったが、特に驚いたのがピーマンの肉詰め。ピーマンやだったんだけど、普通に美味しく食べられた。さすが赤月さん、味付けがピーマンの苦味を感じさせず美味しく食べられた。むしろ好物になったかもしれん。
……ほんと、赤月さんの作るご飯だがあるだけで毎日幸せだなぁ。
「……お?」
通りかかったクラスの男子が、席に座っていた俺の横で止まった。
「……なに?」
「あ、いやなにも〜、はは」
彼はそのままなぜか頬を赤らめ、気まずそうに去っていく。……なんだったんだ。
「……はっ」
俺は男子トイレに走った。洗面台に立ちそこでやっとあの顔の意味を知った。赤月さんに血をあげたあと、俺は熱かったのもあってシャツのボタンをいくつか開けっ放しにしていた。
くっきりと残っている赤い跡。
今回後ろからじゃなく、前からだったからか……けっこう普通に跡がみえていた。
思えば……あの一件があった後、やけに視線を感じるなと思ってはいたんだよな。けどそれは「赤月さんを追いかけていったので?」はという、好奇の目にさらされていたせいだと思っていた。
(……これ、だったか)
首元まで全てのボタンをかけ跡を隠す。……ちゃんとこうすれば全然みえないな。くそ、まじでミスった。ちゃんとボタンしておけば……恥ずかしい。
せめてもの救いは追求して面白がる友達がいないことだな。友達がいないのが救いとか悲しみの極みだけれども。
そんなハプニングがあったがなんとか帰宅。
「……ん?」
部屋の前をみるとスマホを眺め立っている赤月さんがいた。
「赤月さん?」
「あ……おかえりなさい、佐藤くん」
彼女の頬がほんのりと赤い。……まあ、無理もないけど。
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