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「……なんで」
俺が声をかけると顔をあげた赤月さん。彼女の瞳は紅く光っていた。もしかすると吸血衝動が高まれば高まるほど発光するのかな……。
俺はシャツをはだけさせ、肩の部分をあらわにする。ここに来るまでにボタンを全て外しといた。
「なんで、ここに……」
「赤月さん、前もここで蹲ってただろ。だからいるならここかなって」
「ち、違います……そうではなくて……授業、抜け出してきたんですか……」
「ああ。っていうか今はそんなことどうでも良いだろ、ほら血を」
俺は赤月さんに近づき肩を向けた。あの日のように噛んでもらい血を与える。声が震えてる……きっと呼吸することさえ辛いんだ。早くこの苦しみから解放してあげたい。
けれど彼女は俺を体を押しのける。胸に手をつき、遠ざけるように。もうほとんど力が入らないのか、ただ手をついただけに感じる。けれど、彼女の目がここから消えろと、そういっていた。
「はやく、戻ってください」
「どうして?」
「……目立っちゃうじゃないですか」
やっぱり、それを気にしてくれていたのか。ロインを返さなかったのも、吸血衝動の気配を感じていても言わなかったのも。
「大丈夫、こんなのすぐにおさまります……だから、気にしないで」
「気にするよ」
俺は彼女を引き寄せ抱きしめた。血を吸いやすいよう、肩のあたりに顔がくるよう。
「ごめん、こんな……男子に抱きしめられるのは嫌だよな。でも、これで見えないからさ。噛んで……俺の血を舐めて」
彼女のあらい呼吸が素肌にあたる。ほんとなら男として嬉しい展開なのかもしれないが、それよりも今は心配が勝っていた。
「……こんなの、妄想です」
「え?」
吐息混じりの声が耳元できこえる。
「吸血鬼も、なにもかも……だから、血を舐めても、なにもありません……」
「どういうことだ?」
「これは……私の妄想で、自己暗示なんです。だから放っておいて問題はないです……」
(……嘘だろ、それ)
赤月さんは今更なにを言っているんだ?この状況で、そんなことを俺が信じると思っているのか。
あの日、コンタクトかと思った紅い瞳は本物で、この苦しみも演技には到底みえない。
今の俺は彼女が吸血鬼の血を引いているという話を信じている。
長く鋭くなった犬歯、淡い瞳の紅、発汗と熱……。
今目の当たりにしているこの体の変化もそれを信じるに足る理由になっている……が、それとは別にこの数日側でみていて彼女がそんな嘘をつくようなやつではないとはっきり理解した。
俺は彼女が吸血鬼だと言うことを信じた。……なのに、今更なぜ赤月さんは妄想だという嘘をつくんだ。
「……私に、近寄らないで」
震える手で俺を押しのけようとする赤月さん。けど力が入ってない……もう限界なんだ。こんなになってまで、どうして目の前にある血を……。
そこで俺は気がつく。
(……ああ、そうか……彼女は俺のことだけを気にしているんだ)
俺がクラスで目立ってしまうこと、血をまた飲ませ続けなければいけなくなること、俺の負担を気にしていたのか。
自分がこんなにも辛くて苦しいのに、それでも俺のことを。
「……優しいのは、赤月さんのほうだな」
「……なにを、言ってるのか……わかりません」
その気持ちは嬉しいよ。たしかにクラスで目立つのは嫌だよ。中学生の頃は目立っててそれが原因でいじめられたから。そう考えると凄く怖い。
――思い出しかけた暗い記憶を俺は振り払う。
でも、もっと怖いのは赤月さんを失うことだ。
ここで逃げれば、きっともう元の関係に戻れない。
(それは嫌だ)
「赤月さん」
「……」
「俺の血を舐めて」
「……」
「これからずっと俺の血だけを舐めてほしい。例え、それが君の妄想だとしても、それでもいいんだ……俺の血を舐めてほしい」
「……私は……」
俺は赤月さんの頭を手で押し寄せ、彼女の顔を俺の肩に埋めた。
「いいから、俺の血を舐めろ」
「……」
ずぶっ、と鋭い痛みが走った。
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