22 赤月 蘭
――体が熱い。
またあの欲求が戻ってきた。
「……っ」
私の中の全てが、それを欲している。
人の、男性の血液を。
今日は朝から何かが変だと思っていた。熱っぽくて、ふわふわしてて……気分が変に高揚してた。
特に佐藤くんに貰った兎の髪飾りをみていると、心が疼いた。……いや、違う、もしかしたら髪飾りじゃないのかも。
うん、そう……思えばあの日もそうだった。
佐藤くんに血を貰った日。
抑えきれなくなったのは、たぶん吸血衝動よりも佐藤くんに対する何か。
それに反応して血を舐めたいという欲求が大きくなったんだ。
「はあ、は……ん、くっ……」
(……苦しい)
気が触れそうになる。心臓が鼓動するたびに、血を欲する気持ちが膨れ上がっていく。
けど、耐えろ。体を丸めて、腕を噛む。痛みで気を紛らわせるんだ。
オイシイ、チ……ダレデモ、イイカラ……。
私の中の誰かが囁く。
ホラ、アソコニ、オトコガ……イルヨ。
声に導かれ、顔を上げると廊下を歩く男子生徒がいた。授業をサボっているのだろうか、髪を染めた不良のような男の子。
体が動いていた。
獣のように、飛びかかろうと手足を地面につき、草わらの中から出ていこうと。
ユルシテ、クレル……スコシクライナラ、サトウクンダッテ……。
「欲しい、欲しい、血が……」
前よりも大きな吸血衝動。頭の中がそれだけに支配されていく。
私は彼に向かって走り出した。
しかし、その時
――ポトリ、と地面に何かが落ちた。
それは佐藤くんがくれた兎の髪飾り。
「……っ」
彼の笑顔が頭のなかを過ぎり、脚が止まる。
思い出される彼と過ごした時間。
(誰でも良いわけじゃないって、いったのに)
私は佐藤くんのだから、血を舐めたんだ。
恥ずかしくて、怖かったけど、佐藤くんだったから。
髪が白くなる前にくれた、彼の言葉を心の中で反芻する。
彼から貰った大切な、お守りの言葉。
――――
赤月 蘭、小学生。
父が幼い頃に亡くなり、残された再婚相手の母と私。
「……んー、無理かなぁ」
「え」
「私はあなたのお父さんの家柄に惚れていただけなの。だからあなたにも愛情はない。っていうか、その赤っぽい瞳の色が薄気味悪い」
そう言われ、母に捨てられた私は父の実家で育てられることになった。けれど、吸血鬼の血のことを知っていた祖母と祖父は、私にその片鱗がみえていることで腫れ物に触るような扱いをされた。
基本的に会話はなく、目も合わせてくれない。
どうやら昔から度々あらわれる私のような子供は神の子としてみられ、干渉しない決まりがあったらしい。
そんな家が息苦しくて、帰らずに公園で時間を潰していることが多くなった中学一年生のころ。
「あ、みつけた」
「……みつけた?」
私は佐藤くんと出会った。
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