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それはお昼休み付近の事だった。
「……あれ、赤月さん体調悪いの?」
「いえ、大丈夫です」
女子グループの一人が赤月さんの異変に気がついた。
三時間目の授業を終え、休憩に入ったとき。赤月さんの目が虚ろになっていた。
(……頬が赤い)
席を立つときも体が重そうにしていて、どことなく怠そうな印象。
ロインでも送っとくか。
『大丈夫?風邪ひいた?』
しかし、余程つらいのかスマホの着信にも気が付かず、ぼんやりと席に座ったままだった。女子グループの面々が保険室に行こうといい、赤月さんを心配する。しかし、大丈夫といって動かない。
そして四時間目の授業が始まった。
「それじゃ、赤月。ここ答えて」
「……はい」
席を立ち、先生の問に答えようとした時。机に手をついた。
「!?、大丈夫か赤月!」
「……」
額には汗が滲み出ていた。
「……あの、すみません」
「なんだ!?」
「保険室、行っていいですか」
「そりゃ勿論!保健委員、赤月を連れて……」
「大丈夫です、ひとりで……いきます」
「赤月さん、付き添うよあたし」
「大丈夫、ひとりで行けます」
「……そ、そう?」
赤月の圧のある声に気圧されする、保健委員の女子。気持ちに余裕が無いんだろう。まるで男子に対する塩対応のような……。
え?
まさか、もしかして。
ぎゅうっと目をつむる赤月。
「……ごめんなさい、鈴木さん」
「あ、ううん。……きをつけてね」
保健委員の女子に謝り、ふらふらと廊下へ。
目をつむる時、一瞬みえたあの目。
(……まさか、吸血衝動が……?)
でも赤月さんは治ったって……いや、けど今の赤くなりかけた瞳の色と、あの症状は……あの時と同じ。
治ったと思っていたけど、実は治っていなかった?
じゃあまた赤月さんは、あの苦しく辛い目に合っているのか?
ていうか、なんで俺にロインで言わなかった?
どうして俺は頼られなかったんだ?
(……いや、そうか)
ふと気がつく。俺にロインでしらせると、迷惑をかけると思ったからだ。
血を貰うには人目が多すぎる。
さっきも心配する女子グループがどこにいっても一人にはさせてはくれなかっただろう。
いまも赤月さんが消えて、追うように俺も出ていけば変な噂がたちかねない。
俺がそういうのを気にするのを知っているから、助けを求めなかったんじゃないのか。
「じゃ、授業再開するぞ」
再開された授業。教室は黒板をチョークでたたく音と時計の針の音だけになる。
俺は教科書なんてもう見ていられなかった。
(……授業が終わるまであと二十分)
休み時間になれば皆に紛れ教室を目立たずでられる。そうして赤月さんを見つけられれば、誰にも見られずに血をあげられる。
――チッ、チッ、と長い針が回る。
やけに進みが遅いように感じた。