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ピンポーン、と帰ってすぐにインターホンが鳴った。
(早っ……!)
出てみるとそこにはまだ制服姿の赤月さんが。
「あれ、今日は制服のまま?」
「いえ、取り急ぎお伝えしたいことがあったのでまだ着替えていません」
「あ、そう。……なに?」
「今日はちょっと食材の買い出しをするのでお邪魔するのが遅くなります」
「ああ、なるほど」
「なので良い子で待っていてください。待ちきれずにお菓子など食べないように」
「子供か!」
「ふふ」
にんまりとする赤月さん。もう普通に笑うようになったな。
「ではまた」
「ああ、うん気を付けてな」
「はい」
赤月さんの翻るスカート。扉をしめ、俺は制服を脱ぎ始める。
はあ、全く。
『ああ、うん気を付けてな』じゃねーよ!!
ついて行けよ俺も!
食材の買い出しとか男の子の出番でしょうが。とりあえず出かける準備して、赤月さんの隣いこう。良かったら手伝おうかってきこう。
そしてかつてない程のスピードで着替えた俺。外出ようの着替え久しぶりに着たな……なんか改めてみると全体的に黒い。これダサくないか?大丈夫か?
なんか妙に気になってきた。今それどころじゃないのに!
いや、まて……もうすでに朝あんなダサい姿を(シャツ裏返し)を見せてしまっているんだぞ。多少私服がダサくても今更だろ。
今更、だろ……動け、俺の脚!!くそがあ!!
そうして覚悟を決めるのに十分もの時間が無駄にかかり、やっと赤月さんの部屋前に。猫ちゃんシールが貼られたインターホンをおす。
(そういやシールは猫なんだよな、兎じゃなくて……)
ピンポーンと中から音が聞こえる。
しかし他になんの物音もしない。
出てこない。
赤月さんが出てこない。
……マジでか……。
もう一度鳴らしてみる。が、しかし一向に彼女が出てくる気配はない。
これ、俺が悩んでる間にもう買い物に出かけちゃった系?
どうしよう。追いかけるか?いや、近くにスーパーは三軒ある。わりとでかい店舗だし探すの難しくないか……ってか、探しにこられたらそれはそれで、ちょっと怖くないか?
くそ、こんなことなら連絡先教えて貰っとけば……。
そう思った瞬間、我に返り首を横に振る。
いや、連絡先を教えてくれなんて言えるわけがない。距離感近くなってて忘れてしまいそうになるが、彼女と俺とではカーストが……住む世界が違う。俺なんかがあの赤月さんに連絡先をきいていいはずがない……。
こんなダサい黒尽くめのカースト底辺男子が、あの可愛らしくてカースト頂点女子の連絡先を……。
(うん、もう仕方ない。これは打つ手がないよ……)
赤月さんが帰ってくるまでゲームでもしとこ。少しでも沈んだ気分を上げておこう。こんな陰気になってるやつと食事なんかしたくないだろうし。
その時、ふと今朝の笑い顔がよぎる。赤月さんの俺の裏返しのシャツをみたときの笑顔。
(……笑ってたよな)
うわぁ、ダサいこのひと無いわぁ〜。って感じじゃなくて。
自分の服をみる。そこまで変でもないような……つーかダサかったらなんなんだ?そもそも俺の着ている服がカッコよかったらどうなる?
結論、別にどうもならない。
それよりも、今間違いないのは赤月が食材を買って帰ってくるということ。荷物持ちが欲しくなるであろうということだ。
俺の格好がどうとかは関係なくないか。
だいたい彼女が買ってくる食材には俺が食べるものも含まれているんだ。なら、手伝うのは当然だろ。
「……探すか」
無駄足かもしれない、けれど俺は走り出した。




