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……それって、俺のために?わざわざ骨を取り除いてくれたのか……?
「……ど、どうしました、なんですか?」
俺がよほど変な顔をしていたのか、ぎょっとする赤月さん。
「あ、え……いや……なんか悪いなって思って。わざわざそんな手間かけさせちゃってさ」
赤月さんがハッとした顔をした。
「いえ、そんなに手間暇という程では……!私、こういうの得意なので、すぐ終わりましたし」
「や、けど……」
「さ、魚から骨をとるのが趣味……なところがあったり、するんで!……ほんとに気にしないで」
……骨をとるのが趣味?
気まずそうな顔で麦茶をあおる赤月さん。
「ふっ、くく……なにそれ。そんな趣味ないでしょ」
「っ!」
変な誤魔化し方に思わず笑ってしまった。
「そんなに、笑わなくても……」
「ごめんごめん」
「……」
「けど、骨取るのが趣味は嘘だろ?」
「……それ以上、その話題を続けるのなら本当に骨を集めるのが趣味になりかねませんね」
「え……どゆこと?」
赤い顔で睨みつけてくる赤月さん。
「こんど、集めた骨を全て佐藤くんの好物に入れてさしあげます」
「怖い!ごめんなさい、もう言わないです!」
「……それが嘘だったら、ほんとに仕込みますから」
リアル嘘つきは針千本の刑!?
「わかりました、スミマセン」
「……まったく、もぅ」
ぷんすかしながら食事を再開する赤月さん。
(なんか楽しいな)
いつもは携帯かPCで何かみながら一人で食べていた夕食。誰かと食べるのはこんなに楽しい気持ちになるんだな。
唐揚げを頬張る。昼間に食べた弁当のとは全然違う食感と味。あれもかなり美味かったが、揚げたけのざっくりとした歯ごたえと溢れ出す肉汁が堪らなく箸を進める。
「あの、ひとつ……いいですか」
「ん?」
「佐藤くんのご家族はいつ帰ってこられるのですか?」
「なんで?」
「あいさつをしておかなければと。こうしてお家にお邪魔させていただいているので」
「いつ……今度はいつかな」
「?」
「家は父親一人なんだけど、仕事が忙しくてさ。基本的にどこか出張いってて帰ってこないんだ。だからたぶん今日も明日も来週も帰ってこないよ……居るのは年に数回くらいかな」
「……なるほど、そうだったのですか」
「赤月さんと同じで基本的に一人暮らしみたいなものさ」
「……そうなんですね」
「まあ、だからキッチンもあんな惨状だったわけなんだよ」
「え、それは関係ないんじゃ……」
ちっ。
「けど、そうですか。なるほど」
「?」
ふんふんと頷く赤月さん。……容姿もそうだけど、仕草が可愛いんだよなこの人。
俺はパスタの残りを平らげ、出されたメニューの全てを完食した。少食なのに、腹いっぱい食べてしまった。恐るべし赤月さんの手料理。
麦茶を飲み、ふうと一呼吸。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
なんか自然に手を合わせていた。すると赤月さんがにこりと微笑む。
「はい、おそまつさまでした」
……なんだろう。昼間の弁当といい、今の夕食といい、腹が満たされる以上に満足度が高い。
近場の好きなラーメン屋さんとか、たまに出前でとる好物のてりたまピザとか、ふつうに美味しいものを一人で食べている時よりも。
何かが満たされる気がする。
「では、私は食器を洗うので休んでてください」
「……え、いや。それくらいは俺がやるよ、さすがに」
これだけしてもらって後片付けまでやらせるとか、ダメだろふつうに。
「ですが……」
「いや、これは俺がやる。絶対」
「……ちゃんと出来るのですか?」
「子供かよ。食器洗うくらい出来るに決まってるだろ」
「え、でも前科があるので……洗い物放置」
「ぐっ、いやあれは……まあ、そうか。そうだな。けど、大丈夫だちゃんとできる」
くすっと笑う赤月さん。あれ、これひょっとしてさっきからかったのやり返されてる?
彼女は悪戯な笑みを浮かべ、
「嘘ついたら、針千本ですよ」
そういって首を傾げてみせた。




