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「あの、今さらなんですが……」


「なに?」


「夕食のメニュー、こちらで決めても大丈夫ですか?もう時間も遅いので……」


時計をみればもう七時近かった。


「や、それはもう全然大丈夫です。キッチンの掃除なんて余計なことさせて時間が潰れちゃったんですから」


「なぜ敬語なんですか」


「反省してるので」


「やめてください、調子がくるいます。別に大丈夫なので普通にしてください」


「そっか……ってか、赤月さんも敬語だよね。そういえば」


「え、まあ……」


「敬語なしで喋れないの?」


「無理です。これは癖みたいなものなので」


「癖か。なるほど……ん?家族との会話とかも敬語なの?」


「基本的にそうですね。姉とも血が繋がってないのと年が離れているというのもあって敬語を使ってます」


「なるほど。そうか」


「それがなにか?」


「いや、少し気になっただけ。息苦しくないのかなぁ、と」


「癖なのでそういうのは特に感じたことはありませんね。……それより夕食の準備を始めてもいいですか」


「あ、うん。悪いな、邪魔して」


「いえ。できるまでゆっくりしていてください」


「ああ……っていうか、何か手伝おうか?できることがあればだけど」


「大丈夫です。これはお礼なので、私ひとりで」


「そっか」


そうして赤月さんは持ってきた材料やタッパーに入れてきた何かをつかい調理を始めた。なぜツインテールに変えてきたのかを聞きそびれたが、今質問してまた手を止めてしまうのは心苦しい。あとにしよう。


とはいえ、台所に彼女をひとりにはしておけない。これは信用がないとかではなくて、何か困った時に俺が対応できるよう近くにいたほうがいいという意味合いで。食器や調味料の場所とかわからないかもだし。


(……部屋から漫画でも持ってきて、リビングにでも居ようか)


ソファーに座り漫画を読み始める。ちなみに俺は基本的には電子書籍派だが、気に入った漫画は本で買う。いま持ってきたやつもお気に入りの一つで、フィギュアスケートが題材の漫画だ。


ペラペラとページをめくり、前に読んでいた途中のところまで進める。


キッチンから聞こえてくる、何かを焼いている音。


鼻腔をくすぐる香ばしい匂い。


俺はどこか懐かしい気分になる。


(……なんか、落ち着くな)


テレビもついてない、会話もない無言の空間。あるのは赤月さんの料理している音と匂い。


キッチンに目をやると彼女はツインテールを揺らしながら、せっせと動いているの背中が見えた。


……もし、将来……お嫁さんができたら、こんな感じなのだろうか。


まだ彼女すら出来たこともないのに、俺はそんな妄想をついしてしまう。いや、まだというか出来る予定も無いし、その可能性も無い。


恋愛なんてものはゲームや漫画、小説で体験すればいい。そう思って、俺はそういう誰かに好かれる努力なんてしてこなかった。


(……そんな俺に恋人なんて出来るはずが無い)


そう……だから、こんな妄想はしない方がいい。下手をすれば病のように患い、拗らせ、苦しむ事になるんだから。


すぐに忘れてしまえ。それができないなら胸の奥へと沈めて目を逸らせ。闇夜を舞う虫のように、光へ魅入られ焦がされる前に。


俺は赤月さんから目を逸らし、漫画を再び読み始めた。




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