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夕飯をつくるといった赤月さん。しかし、そんなことは不可能だと俺は自分家のキッチンを見せた。すると、彼女はとてもすごい表情になり固まってしまう。
赤月さんは青ざめ口の端がひくひくとしている。スカートの裾をぎゅっと掴み、体が強張り、微動だにしなくなった。……なんか、胸が痛むな。
「……これは酷い」
「ごめん」
ごめんとしか言いようがなかった。ずっとキッチンこんな感じだったから、見慣れちゃってて……だから、そこまで絶望的な顔をさせるとは思わなかったよ。ごめんな。
「?、なぜこのスポンジだけ綺麗なのですか……?」
「それは、赤月さんの弁当箱を洗うのに新しいのをあけたんだよ。ずっと使ってたやつはなんかボロボロだったし」
「そうですか」
赤月さんはちらりとリビングの時計をみた。
「少し待っていてください。制服着替えてきます」
「うん……え、なんで?」
「キッチンを片付けます。このままではお夕食が作れませんから」
「いや、そこまでして……悪いよ」
「そう思うなら、佐藤くんは私が戻ってくるまでに皿の一枚でも洗っておいてください」
「……はい、がんばります。すみません」
そうして誠意をみせるために皿を数枚洗っていると、赤月さんが戻ってきた。
「おかえり」
「ただいまです」
可愛らしい普段着の上に桜色のエプロンをつけた赤月さん。初めてみた学校一美人の私服。あまりの可愛らしさに洗っている途中のコップを滑り落としそうになった。
(しかもポニーテール……)
「なにか?」
「や、かわいいと思って」
「……」
洗い物は滑らせなかったのに口が滑った。赤月さんの頬がほのかに赤く染まる。ちなみに俺の顔はたぶん真っ赤だ。顔がやばいくらい熱い。
「……ありがとう、ございます」
そういって俯く赤月さん。まじか。かわいいなんて言われ慣れているイメージだったんだけど、まさかこんなに照れるとは。そもそもの話、男からの褒め言葉なんて普通にスルーかと思ったんだが。
(……てか、前に可愛いって言い寄ってきた男子をシカトしてた現場みたことあるな、そういや)
……とりあえず、この空気は耐えられそうにないので話を変えよう。
「ちょっと待ってて、もう洗い物は終わるから……」
「いえ、洗った食器を拭きます」
「まじで?布巾とかあったかな」
「大丈夫です。私持ってきました」
「……なんか、悪いな」
「いえ、さっき来たとき見当たらなかったので。食器はどこにしまうのですか」
「そこかな」
俺は食器棚を指さす。
「……え、あれですか?なんか埃かぶってません?」
「……」
それから約一時間。キッチン一帯が赤月さんのお掃除テクニックにより我が家のとても酷い惨状の台所が、輝きを取り戻し綺麗に生まれ変わったのだった。
「掃除までさせてごめんな」
「大丈夫です。これもお礼のうちということで」
「……そっか、本当にありがとう」
明らかに疲弊している赤月さん。お礼にかこつけて助けて貰われすぎな気がする。いや、気がするっていうか、絶対やらせすぎだよな。こんどなにかお返しでも考えるか。
「では、一度戻って食材を持ってきます。待っていてください」
「わかった……けど少し休んだら?疲れたでしょ」
「大丈夫です。行ってきます」
「そっか。うん、いってらっしゃい」
ほっそりとした体つき(胸以外)に反して意外と体力があってパワフルだな。さっきの掃除も一度も休憩挟まずにテキパキと作業をこなしていた。
……そういや、持久走とか得意だったような。体力おばけだな。
俺とは正反対だ。明るいところも、頭が良いところも、容姿の良さも……触れられる距離にいるのに、彼女の輝きをみればみるほど遠い存在だと自覚する。
ピンポーン、ガチャ。
「……ただいま戻りました」
「おかえり……えっ?」
ポニーテールがツインテールになってる!?なんで!?可愛いすぎか!!
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