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「……ふむ」


返ってきたテストを眺め俺、佐藤さとう あゆむは頷く。まあ予想通りの結果だな、こんなもんだろ。心の中でそう呟き、俺は一桁の点数の答案用紙を折りたたみおもむろに机の中にいれた。


高一の一学期、期末テスト。最悪の結果から目をそらし、ぼんやり窓側の席を眺める。これは決して現実逃避ではなく、思考の切り替えだ。いつまで考えていても仕方ないし、点数が増えるわけでもない……だからいっそあのグロい赤点を記憶から消去し、これからの事を考えるのだ。


(あともう少しで帰れる)


帰ったらなにしようかな。またPZ4の暗黒魂の続きでもしようかな。昨日はヴァンパイアのボスがクソ強くて七回死んだくらいでふて寝したんだったか。


教室に視線を戻すと、返ってきたテストの話で盛り上がるクラスメイトが目についた。


もっと勉強しなきゃとか気合を入れてる奴、点数の低さをネタにして笑うやつ。いずれも仲の良い友達どうしで会話をしていた。


(……楽しそうだこと)


腕を突っ伏し机に寝そべる。せめて寂しい人間に思われないよう。いや、もうすでに俺のこのクラスにおける立ち位置は決まっているし、今さら取り繕っても無駄ではあるのだ。が、せめてもの抵抗だ。自尊心を保つ為の自分の為の抵抗。


俺には友達がいない。別にいじめられているとかではないし、無視されているわけでもない。だが友達と呼べる親しい人間はいない。


これは理由がある。それは俺が人と関わるのが苦手であるとこと。上がり性とまではいかないが、内向的な性格なのもあって、上手く人と喋れない。


聞かれたことに対して上手く返せない口下手。複数人での会話が特に苦手で、何も喋れずたちまち空気になる。


まあそんなこんなでこのクラスでは影の薄いぼっちと化していた。


でもこれはデメリットとして寂しいという気持ちはあるがそれを上回るメリットもある。


それはすべての時間を自分の趣味に回せるということ。友達に気を使って貴重な休み時間を使わなくていいし、休日を潰されることもない。昼休みだって中身のない話を聞かされるのなら好きな音楽を聴きながらWeb漫画や小説を読んだりしていた方が何倍も有意義だ。


そう、そもそも時間というものは貴重なのだ。家の親は母が死んでから父親一人で俺を養ってくれている。出張ばかりで滅多に家にいない父。尊敬もしてるしありがたく思ってはいるが、仕事ばかりで自分の時間が全くと言っていいほどないあの姿をみていると将来に恐怖を覚える。


将来の自分の姿をみているようで、怖くなるのだ。


好きなゲームも小説も漫画も読む暇もなく働きづめる。この加速していく不景気の荒波の中で、力のない人間は馬車馬のように使い潰される。


だから、今を全力で楽しむ。友達と遊んでいる時間も勉強する時間も全てを自分の趣味に注ぎ込み楽しみ切る。将来あの地獄にいくことは決定しているんだ。俺の頭の出来は俺が一番知っている。今から勉強を頑張ったって焼け石に水、いいとこには就職できないさ。


だったら『太く短く』だ。学生生活を思い切り楽しみ切る。


ふと目の前を腕組むカップルが通り過ぎる。仲睦まじく、幸せそうな顔で。


……ああ言うのも時間の無駄だよな。気疲れしそうだし、かなりの時間を無駄にする。漫画やゲームで十分満足できるし、そっちのがたぶん楽しいしな。


(ま、そもそも底辺カーストの俺に恋人なんてものができるわけないんだが……)


――キーンコーンカーンコーン。


やっと一日の授業が終わり、皆が部活や帰宅へと席を立つ。そんな中、俺は席をたたずにスマホを眺めていた。この集団に紛れて行動するというのがなんとなく嫌なのだ。だから、いつもこうして帰宅するタイミングを少しずらす。


(さて、そろそろ帰るかな)


イヤホンを耳に入れ最近観ているアニメのOPを流す。廊下を歩いていると行く先に生活指導の先生の姿があった。


(げ、やば……)


幸いまだこちらに気がついてないようなので、反対方向へ。別ルート、遠回りして玄関へと行くことにした。裏庭を横切るかたちになるが、仕方ない。イヤホン外すのも面倒くさいし、これもちょっとした散歩と考えればまあ。


いや……遠回りする方が面倒だし、イヤホンを外して先生をやり過ごせばよかっただけなのでは。裏庭に差し掛かったときふと思った。


どんだけテンパってたんだよ、俺。


「……ん?」


ぼんやり裏庭を眺めながら歩いていると、草むらの陰で人が蹲っているのがみえた。


……あれは、ウチのクラスの赤月さん?


顔は見えない。けれどその髪色でわかった。雪のように白いプラチナのセミロング。さらさらと光を放つその目立つその髪はこの学校では彼女の他に誰もいない。


あんな派手に髪染めて先生に怒られないよな。まあ、成績優秀で運動もできる完璧女子となれば髪色くらい見過ごしてもらえるのかな。明らかに校則違反な気もするが。


(……しかし、微動だにしないな……大丈夫か?)


俺はイヤホンを外し、一応様子を伺う。


「……っ、……ぅ……」


微かなうめき声のようなものが聞こえてくる。これ、声かけた方がいいのか……?


あたりを見渡すが人は誰もいない。ここには俺と赤月さんの二人しかいないようだ。ならば俺が声をかけるしかない。


……けど、俺なんかが声をかけていいのか?


赤月あかつき らんといえば、スクールカーストの頂点のような存在だぞ。


文武両道、容姿端麗、ナイスバディ。美しい白の髪、作り物かというほど整った端正な顔立ち、入学当初には隠し撮りされたブロマイドが裏で高値で取引されていた程の美人。そんな異次元な存在に声をかけるなんて……。


それに、あれだ。ためらう理由としてはそれとは別のほうが大きい。


(赤月さん、男嫌いなんだよなぁ)


女子に対しては大人しく静かで優しい性格だが、相手が男となると圧倒的塩対応。


『――私に近寄らないでください』


クラスの男子が彼女にお近づきになろうとして寄っていった時に発したあの一言。俺もその場であれを聞いていたが、自分が言われたわけでもないのに泣きそうになった。


完全な拒否。拒絶の表情。威嚇する声の圧力とその怒気は今でも鮮明に思い出せる。なぜ、そこまで男が嫌いなのかは知らない。けれど男では例え先生ですらも近づくことができないのだ。


(……けど、体調が悪いならほっとけなくないか)


あらゆる男たちが拒否され近づくことすら許されない。かといって女子が通るのを待つわけにもいかないし、いや……誰か連れてきたほうが――


「……ん、ぅ……あっ、ぅぅ……っ!」


びくびくと痙攣する赤月さん。それをみた瞬間、俺は損得勘定を投げ出し彼女の元へ行った。


「赤月さん、大丈夫!?」


しゃがみ込み声をかけると彼女は目を見開いた。そして俺をみて一言。


「……あっ、や……ダメ、ち、近寄らないで、くださいっ!」


彼女の紅い双眸が俺を映していた。


【重要】

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