prologue
お題サイト「揺らぎ」様※からいただいたお題で、短編を。知音の序章にもなっています。
「なーあ、俺お前がお前でよかったと思ってるけど、お前も俺が俺でよかったとか思ってくれてる?なあなあ、どうよ、どうなんよ、そこんところ。」
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「なーあ、なんでお前俺と付き合ってんの?」
あいつは振り向きざまに俺を一瞥して、いう。
「あんたってさ、いつも『なーあ』って呼びかけるよね」
それを言うのなら、お前もいつものごとく質問に答えてくれない。
「だから付き合ってんの?」
「ばっかじゃないの?あたしはどれだけ欲がないのよ」
ばかの「ば」に必要以上に力を入れて吐き捨てるように言うさまは、あまりかわいらしくはない。
「じゃあなんで」
「それ、飯田にも言われた昨日」
いいだいいだ。たしかこいつの隣の席の男子。あんまりうるさくはないけど女子と普通に喋るタイプ。たしか彼女とこないだ別れたらしい。
「なんて答えたのさ」
一瞬、睨まれた。一瞥なんてもんじゃない。すくみあがりそうになった。
「なんだよ?」
「別に。聞きたいの?」
一応、と答える。可愛くない。
「わかんないけど告白されたし、って答えといた。」
さすがにその投げやりな言い方とセリフにいらだちがせりあがってきた。もうにらんではいない目を、思いっきり睨みつける。
「なんだよそれ!そこは俺のいいところをあげるとこだろうが!」
「あんたのいいところってどこよ」
こっちの怒りも睨みも無視してしれっと言う。ああもう、可愛くない!
「ところでさ」
古井が話を振ってきたのは三十分後だ。
ちなみにここは俺の部屋で、おれたちは俺のベッドにこしかけたり体を折って寝そべったりして読書にいそしんでいた。古井は文庫本、俺は雑誌。
「陸奥って自分に自信ない方だっけ?」
「何それ。俺は自分に自信ありますけど。」
まあ美形ではないし地味系だけど、見た目は悪かないし、なかなかいいやつだと思うし。因みに客観的意見。
「じゃあなんでそういうこと聞くわけ?」
「べっつにー。なんとなく?」
実は、なんとなくではないのだが。
自分に自信がなになんて、そんな馬鹿な。そんなの人生生きづらいじゃないか。
そりゃあ多少頭は悪かったりもするけど、特出して何か秀でてるわけでもないけれど、別にそこはそこ。目をつぶる。
ただ。
自信がほしいのに、自信がどうしたってもてないこともないわけではない。
たとえば、
この古井っていう可愛くねー女は、
ちゃんと俺のこと好きでいてくれてんのかとかまあそんなところだ。
ここはあんまり目をつぶれないから困る。
「ふーん。ま、どうせあんたのことだから特に考えなんかないんだろうとおもってたけどね」
「…なんでそういうかっわいくない言い方ができるかなあ、お前は」
「惚れたのはあんたでしょう」
「OKしたのはおまえだろ」
「………」
「………」
さらに三十分。
古井は携帯をいじっている。さっきの文庫本は読み終えたらしい。
十分くらい前から携帯に移行したのだが、ずっといじっていて手放さない。数人とメールしているらしい。
料金とか気にしないのかなぁ。
ていうかこいつ、実はけっこうまつげ短いな。面白ー。
でも、何気に髪の毛さらさらだよな、手入れとかちゃんとしてるっぽいし。
黒ぶち眼鏡もなんだかんだ似合ってるし。なんだっけ、こういの、眼鏡美人?
それにしてもなんでこいつはこんなに可愛くないかな。性格が。
うーん、性格というか、言い方が悪い。口が悪い。しかも質問に答えない。なんというか、最悪だな。
うーん…まあ、それでもねえ。
待ち合わせとかは絶対時間どおり来るしな。俺が遅れたら超怒られるけど。
あと、音楽とかの趣味いいんだよね。こいつのオススメの曲はハズレないし。妙にオンナノコオンナノコしたのじゃなくて、いい感じの曲薦めてくれるしなあ。…でも、こないだのカラオケでは結構知らない曲も歌ってたな?……もしかして、選んで薦めてくれてんのかなぁ。
こいつって結構気がきくんだよね。
…だから、その、こいつは口悪いけど、まあ、こいつのままでいいかな、と。
だから、さっきの質問は。
俺でいいの?って。
古井の横顔を見ながら。
なーあ、俺お前がお前でよかったと思ってるけど、お前も俺が俺でよかったとか思ってくれてる?
なあなあ、どうよ、どうなんよ、そこんところ。
胸の内で、つぶやく。
「いつまでこっち見てんの」
「…いつから気付いてたの?」
恐るべし。
「打ちづらいから見んな」
しかも質問に答えない。そして言ってることが非情すぎやしないかい、まいはにー?
「別にいいじゃん」
ちょっと反抗して見続けていると、眉間のしわが険しくなってきた。おお、怖い。
「てか、誰とメールしてんの?」
「さぁね」
「めーこちゃん?それか前野木さんとか?」
「誰でもいいじゃん。何、急に興味もっちゃって」
別に急にでもないのだが。そんなに関心がないとでも思われていたのか。
「急でもないし。てかなに、怒ってる?もしかして」
「怒ってない」
怒ってる怒ってる。
なんだろ。
「……ああ、可愛くないって言ったのは謝るって。ごめんごめん」
「別にそんなことで怒っちゃいないけど?」
「じゃあ何!てかやっぱり怒ってたんじゃん」
人の揚げ足をとるな、と頭をしばかれる。乱暴女め。
「だーかーらー、謝ってんじゃん」
「そんなことじゃないって言ってるでしょ?」
「だって実際怒ってんじゃんか」
それからもう少し押し問答は続いたのだけれど、結局折れた…というか、話題をそらしたのは古井の方だった。
「なに、あたしがメールの相手言わなかったので不満なわけ?」
「そんなんじゃ」
「メールのお相手は飯田ですー。いい?満足?」
可愛くねぇ。つぶやきかけたところで、ふと、飯田?と顔をあげた。
「ちょっとさ、なんで飯田とメールしてんの。メアド知ってたの?いつから?」
「なに、浮気調査?別に、昨日だけど?」
昨日。ああ、なんか聞かれたとか言ってた。
「……っていうかさ、なんで飯田とそんな話してんのさ」
「そんなって知らないでしょう、あんたは」
「メールじゃなくて、なんで俺と付き合ってんのかって話!」
そういうと、古井はようやくこちらをまっすぐ見た。不機嫌さが少し薄れたような気がする。まっすぐ見られて、くっと言葉に詰まる。その間に古井は目をそらした。不機嫌でというよりは、困ったように。
「なんでその話を今更…」
むむ。この反応は。一応付き合って一年以上たっている。こいつの困り顔は、高い確率で照れ隠しのことが多い。
この話を振ってほしかったのか。
……というか、さっき言ったときに反応しなかったから睨まれたのか。
んでもって不機嫌になった、と。
「………」
「ちょっと、聞いてる?聞いてないでしょ。ほかごと考えてるでしょう」
一年以上の付き合いで、バレるところはバレるらしい。
「いやぁ……古井って、案外可愛いなと」
「んなっ」
おお、赤くなってる。可愛いやつめ。
「とにかく、あっち向いててよ!メールそろそろ終わらせるから!」
「えーやだー。見てるー」
「………あっち向いててってば!」
まあ、俺は俺でいいのかもしれない。
なかなか愛されてるじゃあないですか。
これだけで読めるようにしたつもりですが、どうでしょうか。
自分としては妙に甘くなった気もします。




