ひとめぼれ
少々ホラーやグロ要素と感じられる要素があるかもしれません。
これは私の一目惚れの話。
初めて会ったのは確かカフェだった。
私がカバンからリップクリームを落とした時に拾ってくれた。
「落としましたよ。」
そう言って私に手渡してくれた。
私は喜びとともに真っ先に顔を見てしまった、癖のようなものだが相手は嫌がっていなかっただろうか。
あの人はとてもきれいだった。少し伸びたまつ毛、色のはっきりとした黒い瞳孔、筋の通った鼻。とくにアクセサリーなどは付けず、自然体という感じだったと思う。
次に会ったのは利用している駅の構内でだ。
転びそうになったその人を私が支え、お礼を言った相手が私のことを覚えていてくれた。
「前カフェで会いましたよね。
助けていただいてありがとうございます。
もしお時間あったらお礼と言ってはなんですが、お茶しませんか。」
私は提案を快く受け入れ、駅の近くの出会ったカフェでお茶をすることになった。
相手の名前は理恩というらしい。
名前まで美しいとは。私はそれを知った時ますます惹かれてしまった。
せっかくということなのでその日はコーヒー一杯をごちそうになり、連絡先を交換して別れることにした。一歩前進した時だった。
私は家につき、歴代の思い人の姿を思い出しながら、今回の出会いに感謝して就寝した。
連絡があったのは向こうからで、内容は買い物に付き合ってほしいという内容だった。
なんでも私の服が自分の好みと似ているから、見繕ってほしいらしい。
同性であったことを感謝しながら、週末に約束を取り付け、その日に着ていく服を選びながら日々を過ごした。
そして週末、私は自分なりのコーデに身を包み、近隣では大きい方のモールで彼女と待ち合わせをした。
「理恩さん。こっちです。」
私の方から語り掛けたのは初めてだったかもしれない。
彼女は、私に手を振り、テトテトと効果音が鳴りそうな走り方で合流した。
「今日はいつもと違った装うですね。
そのピアス、もしかして眼球ですか?パンクなアクセサリーとかもするんですね。」
「好きなんですよ。きれいな模様とかで衝動的に欲しくなるんです。」
その日は夏に入る少し前だったこともあり、薄手のワンピースやハーフパンツ、私の好みの少々地雷風な服なども試着してもらい、昼食などもはさみながらショッピングを楽しんだ。
帰ろうとしたとき、落とし物を発見し、理恩さんはそれを警備室に持っていき、どこで見つけたかなど事細かに説明していた。
その優しさにむしろ不安感さえ感じてしまった私は、少し歪んでいるのかもしれない。
せっかくなのでショッピング記念ということでツーショットの写真を撮り、その日は解散となった。
私は家に帰ってからその写真を拡大印刷し、顔をアップにして楽しんだ。
今思うと、もしかしたら彼女は私の本性に気づいていたのかもしれない。
彼女と会話を始めてから数か月がたったある日、彼女から言われた。
「なんか私たちって運命みたいに出会って会話はじめましたよね。こんなことってリアルであり得るんですかね。
なんて。
変なこと言ってすみません。」
せっかくなので少しからかって、「もしかしたら私がストーカーだったりして」など言ったが、彼女は驚いた表情はしても、引いていたり恐怖は浮かべていなかった。
あれは信頼だったのか、私のことを知っていたからなのか。
ついに季節は冬になり、私たち二人のお出かけも十回を超え、友人を超えられるのではと思い始めた十二月。
私は勇気を出しクリスマスのホームパーティーに彼女を誘い、私の願いを叶えることに決めた。
彼女からはOKと返事をもらい、パーティーのために準備を始めた。
スーパー、薬局、ホームセンター、そしてネットショッピングなど、買い忘れの無いように準備を徹底した。
ついに、当日となり、私は緊張と期待、そして消失感を持ちながら理恩の到着を待った。
理恩は、家に来た時、「楽しみだったです。」とワインを手土産にやってきた。
私は用意したフライドチキンとローストビーフ、バゲットなどを机に並べ、せっかくなので理恩が持ってくれたワインを開けることにした。
「あまりパーティーを友達と二人でやったことはなかったので、すごく楽しいです。」
「そう言ってもらえて、私もうれしいよ。」
ホームパーティーはつつがなく進行し、私の仕込んだ睡眠薬により、理恩は眠りについた。
私と理恩の出会いは去年の今頃。
カフェで私がひとめ惚れしたことから始まった。
彼女の美しい瞳に惹かれ、どうにかお近づきになれるように準備を始めた。
まずは、彼女の情報を集めることした。
彼女の利用している駅、SNS、好きなもの、ファッションの傾向など。
行動パターンを調べ、必ず接点を持てるように準備をした。
そしてあの日、春の初めのカフェでのこと。
彼女が人の落とし物を拾い、交番に届けるような優しい性格なのを利用し、視線に入る位置でカバンからリップクリームを落とした。
案の定彼女は私に声をかけ、拾い上げ手渡ししてくれた。まじかで見た彼女の瞳はつい見つめてしまうほどには魅力的だった。
印象が薄れないように、数日以内に駅で接点を作った。
彼女が通勤に使っている電車から降りてきて、改札に行く前に軽く足をかけ転ぶように細工し、それを支えることで恩と接点を作った。
ついにこの日が来たのだと喜びに打ちひしがれながら、私は一番のクリスマスプレゼントを手に入れることに成功した。
連日、ニュースでは同じような内容がやっている。
なんでも二十代の女性が行方不明になったらしい。
彼女はクリスマスに友達とパーティーに行くといって実家を出て、二日以上たっても帰ってこないため、両親が電話をかけたが連絡がつかず 、警察に相談して捜索が開始されたらしい。
しかし、捜索は難航しており、なんとクリスマス当日の彼女の動向が、家を出た後から一切つかめないのだそうだ。
監視カメラなどはその日のみ故障していたり人が多くて隠れてしまっていたらしい。
捜索開始から一か月が経とうとしており、警察は彼女の死亡も視野に入れて捜査を進める方針のようだ。
彼女の名前は、神原理恩<かんばらりおん>。
人生の理解を深め、人への恩を忘れないようにとつけられたらしい。
私は、彼女の両親が泣き腫らした目で、娘の無事を願っているといっているインタビューを聞きながら、最近新しくてにはいったコレクション、「色のはっきりとした黒い瞳孔を持つ眼球の入った瓶」を大事に眺め、あの日のワインの残りを飲んでいた。
私は、三上愛。
これは私が一目惚れ、もとい、人目惚れした話。
愛ちゃんはeyeが好き