⑤-8 大戦への追想④
「僕が幼いから、子供だから、コルネリア様は何もお話しできなかっただけだと思います。大人だったら、きっと話してくれていましたし、大人だったら知っていた筈なんです」
ティトーは服の裾を掴むと、再び言葉を紡ぐ。
「でも、それでも知っていなければいけない事だった。王族だって隠されて生きても、結局はバレてしまうのに。でも、コルネリア様は立派な方です。ルゼリアの人だけがそうではない筈です」
「ティトー……」
「あの、アルブレヒトさん」
ティトーは恐る恐るアルブレヒトへ歩み寄ると、レオポルトのように跪いた。マリアだけがそれを止めようとしたものの、二人の王子はそれを受け入れた。
「何も知らずに、お世話になってしまっていました。大切なお仕事をしていたのに、調査の邪魔をして、司教の所へ行こうだなんて」
「いや、必要なことだ」
「でも……マリアさんにも、御迷惑をおかけしました」
「…………」
「いいか。ティトー」
アルブレヒトは屈むと、ティトーの顔を上げさせた。
「戦争は、ティトーが起こしたわけじゃないし、俺はお前たちや国を恨んでいるわけじゃない。どうにもならず、宣戦布告をしたのはアンセム国だ。レオも、自分を責めるのは止めてくれ」
ティトーの瞳の煌めきは真っ直ぐとアルブレヒトを見据えた。アルブレヒトもまた、ティトーを、レオポルトをしっかりと見つめた。
「でも、アルブレヒトさんの国が……」
「俺たちが今いるのは、なんていう国だ」
「セシュール」
「そうだ。俺はアンセムへ帰国することは考えていない。その前に、やらなきゃいけないことがあるんだ」
「戦争の、しんじつ?」
アルブレヒトは頷いた。
「そのためにも、ティトーは身元を明らかにすべきだ」
「はい」
「すぐにメサイア教会へ行こう。知り合いがいる」
アルブレヒトは立ち上がると、ティトーの頭をぽんぽんぽんした。
「大丈夫なのか、俺たちで行って」
レオポルトは周囲を警戒しながら、教会の鐘を聞いている。午前の礼拝の終了を知らせる鐘が鳴り響いている。
「俺たちで行かなければ、逆に信用はしないだろう」
「教会とルゼリア国はべったりだ。お前に何かあれば」
レオポルトの言葉に、マリアも頷いた。アルブレヒトは処刑されたとルゼリア国に宣言されているのだ。
「そんな事にはならない。メサイア教会ならな」
「メサイア教会に、何かあるのか」
「メサイア教会には、聖女が居る。選定されたばかりの、な」
その言葉に、覚えのあったマリアはハッとすると口へ手を当てた。
「まさか、アル……」
「メサイア教会で、先月選定されたばかりの聖女サーシャ・ノルトハイムは俺の遠縁だ。非公式だが。その、母方の遠縁なんだ」
アルブレヒトはティトーの頭を軽く叩いた。
「話せばわかる、大丈夫だ」