表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】レスティン・フェレス2~暁の草原  作者: Lesewolf
第四環「フックスグロッケン」
52/215

④-8 在りし日の面影④

 パチパチと轟いでいた、森に響き渡っていた焚火の音がゆっくりと無音になると、ティトーはその身に重圧が襲うのを感じた。


「巫女選定の儀?」


 グリットは俯き、炎をぼんやりと眺めたまま立ちすくんでいる。


「巫女というのは、とある一族にのみ伝わる職業みたいなものだ」

「職業。お仕事なんだね」

「そうだ。そして、治癒魔法、治癒法術。そのどちらの力も強く、強靭な肉体の持ち主にだけ、大巫女に選定される」

「おかあさんは、おおみこだったの?」


 ティトーは涙を瞳に溜めることなく、はらはらと頬を伝わせた。まだ六歳にとって、見知らぬ母の存在は大きかったのだ。アンリはその涙に釣られまいと、口を鈍く閉める。


「じゃあ、大巫女に選定されたら、僕はお母さんの子供だって、証明できるの?」

「巫女に選定されるだけでも、証明は出来る」

「問題は、大巫女の場合だな」


 グリットはそう言いながら、薪をくべていった。バチバチと音が鈍く発せられ、静かになった。遠赤外線と言われる、淡い炎と共に、柔らかな暖かさが伝わってくる。


「大巫女だと、問題なんですか」


 ティトーは不安そうに尋ねるが、グリットは微笑みながらティトーを見つめた。


「どっちにしろ、巫女に選定されただけなら、ティトーはアンリお兄ちゃんと兄弟だってことの証明になるぞ」

「大巫女に選定されたら、どうなるんですか! はぐらかさないでください」


 グリットはアンリを見つめたが、アンリは無言のまま炎を見つめている。


「教えてください。アンリさん!」

「大巫女は」



 ぱちぱち、かちかちと音が鳴る。

 獣の鳴き声と、風による木々の騒めき。


 霊峰ケーニヒスベルクは黒き影となり、月の幻影だけが幅を利かせる。



「大巫女は、地位だけでは、ルゼリア王に匹敵するんだ」

「え…………」

「過去、巫女と結婚しようとした王が、特別に力のあった巫女に与えた。そういう地位なんだ。彼女は異民族で、しかも平民の出だったという。地位を与えて、自身と同じ権力を持たせ、彼女と結婚したんだ。そうでなければ、彼女は教会の聖女として、一生を捧げることになっただろう。その時から始まった巫女制度だ。ただ、大巫女でさえなければ、母も結婚など叶わなかった」

「アンリ……」


 アンリは悔しそうに項垂れると、頭を抱えてしまった。


「結婚するために、地位を与えたんですか?」

「いや、初代の巫女、大巫女はかなりの力を持っていたというよ。ただ、母は大巫女でありながら、その地位を放棄していた。……戦争になるからな。ただ、今の一代、大巫女も巫女も母だけだった。それを教会も、世間も許さなかったんだ。王族や、家族でさえ……」


 ティトーは衝撃によってが息を飲む音以外、何も聴き取れなくなった。アンリの言葉の最後まで聞き取ることは出来なくなり、その場に立ち尽くした。


 黒雲が立ち込めるものの、周囲は幻影によって明るく、天候も悪化することは無く、重圧の風が森へ注ぎ込んでいった。


 ただ、静かに木々が囁き、葉を揺らすだけであったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ